第27話



 27話




 ・・・今回は後攻で踊りたい。

 Xさんがどんなダンスをするのか全く知らないのは有るが・・・ここまで来れたのだ。少し慎重に相手のダンスを見ておきたい。


 もし、俺のダンスと違って激しいダンス、ブレイキンやハウスだとしたら、ポッピンはあまり出したくない。・・・比べる事が出来ないからだ。


 やっぱ相手より、凄いムーブをしたときは盛り上がる。でも、ポッピンとは全く違うダンスの場合、盛り上がり所が分からないのだ。・・・もし盛り上がるとしても、相手と比べてではなくてそのダンスがどれだけ音を拾っているかや、どれだけはめる事が出来るかどうか。


 そんな勝負になった時、俺の場合はダンス経験が短いから音にはめるムーブの在庫が少ない。それに対して、相手のXさんは15年?もダンスをやっているみたいだから、知っているムーブの多さは桁違いだろう。


 そんな考えが聞こえたのか。もしくはベテランとしての気持ちが出たのか。


 Xさんが先行を取った。・・・もしここで俺が先行を取らなきゃ行けなくなったら・・・それでもやりようは合っただろうけど。1回戦の様に最初っから奥の手をだして俺のダンスを印象付けたり。


 でも、それは持つ使ってしまったから、もう効力的には薄い。


 もう一度やるってなったら・・・まだ、この大会でポッピンを出していないんだよな。

 周りの流れと言うか、なんとなく兄弟から教えて貰っていたヒップホップをずっと主力として使っていた。


 ヒップホップが結構上手くなったのは理由の一つかもしれない。でも、ヒップホップとポッピンどちらの方が上手いですか?と聞かれたら、ポッピンと答えるほどにはそっちの方が上手いと思っている。



 だから。もしかしたらポッピンを出すだけで・・・でも、ここまで隠せているんだったら、・・・別の所で出した方が・・・。


 そんな考えを張り巡らせながら、Xさんのダンスは始まった。


「・・・ロックか。」


 ロック。

 鍵をかけたように一瞬だけ止まるその様子から付けられた名前。そのダンスの特徴は2つほどある。一つはダンスの途中でピタッと止まる。


 ロックダンスでの一番の特徴だと言ってもいいだろう。


 二つ目はスピーディーでコミカルなダンスと言う事だ。そのダンスのムーブの中にはユーモアあふれる、他のジャンルでは使わないようなムーブがたくさんある。

 もし、他のダンスで使える要素が有るのであれば、ロックを練習していたかもしれないけど、今練習するには圧倒的に時間が足りなかった。


 でもそのロックの特異性は一度経験してみたかった。


「・・・ちゃんと止まってる。」


 動画で見る事は有るのだが、その動画だとやっぱりレート的な問題だったり画質だったり

 そこらへんで止まっているか分からない。本当にこれロックなの?と思ってしまう事は稀にあるのだが。


 目の前で見ると、ちゃんと止まっていて、感動してしまう。やっぱり、動画とかが発展したとはいえ目の前で見るものだなって。その時の雰囲気は分からないし、レンズの違いで違和感が出てきてしまう。


 ・・・それにしても、Xさんの友人は上手くないとか何とか言っていた気がするけど・・・普通に上手いな。もしかしたら、・・・一つ一つのムーブのつなぎとかは阿部先輩よりも考えられている。


 ・・・もしかして、元々何の曲にでも合わせられるようなムーブを組み合わせていたのかな?いや、即興と言っても完璧0から踊る人は少ないから良いんだけどさ。

 俺もある程度は組み合わせて使えるムーブは覚えているし。そうしないと、即興って言っても踊れないし。


「後攻 光」


 それにしても、あのロックに対してどういう回答を出そうか。・・・正直、ヒップホップを出すのは悪手な気がする。それは熟練度てきな問題と、そもそも俺のヒップホップとXさんのロックは雰囲気が被っているから。


 だから、・・・ポッピンで行くか。相手が止まるなら、俺は滑らかに皮肉っぽく。絶対に止まらない。ウェーブを主体で。


 ・・・俺のウェーブは小奈津さんと比べたらまだまだだ。でも、最近やっとわかった事が有って、俺ってウェーブは割と好きなんだ。


 だから、、、ウェーブを練習した期間は俺が出来るムーブの中でも最長だ。それでやっと出来るようになった。


 体を水にする感覚を。


「うぉ!!!!!すげぇ!」

「あれウェーブなのか!!」


 俺のウェーブは水滴が落ちたかのように静かで、でも時に荒波の様に轟音で。俺はその強弱が付けられるようになった。


 誰にでも分かるくらい。


 水はずっと動いている。止まる事は無い。流動体でその現象は神秘的だ。


 さあ、どう返してくる?


「・・・・そう来たか。」


 Xさんのダンスは、さっきとは違いロックの要素を高めてきた。

 いや元々、凄い技術力でそのロックダンスを形成していたけど、その奇跡的な調和姓を無くしたのか、止まる動作を強調してきた。さっきまでは一つの芸術として見る事さえできた。


 だけど、今のダンスはストリートダンス。バトル用の、相手よりもすげぇぞ!というようなダンス。


 俺のダンス。流動性との対比性を意識したのか・・・純粋なロックの技術が目に入る。どの様にロックをすれば記憶に残りやすいか、カッコいいか。それをとことん追い求めた様なダンス。


 さっきのコミカルなダンスとはまた違って、面白い。・・・だから、ここでこの競争に乗っからなければダンサーとしてすたれる気がする。


 どちらの技術が素晴らしいかのぶつかり合い。面白いじゃないか。


 Xは固定、俺は波。



 ☆


 その戦いは接戦で合った。第二ラウンドの後攻。光は先ほどの第一ラウンドよりも波を大きくして、強弱を目立たせることで荒々しい、ウェーブに仕立て上げた。だが、その荒々しさは不自然な様子は一切になく、反対に音にハマっていた事もあって。


 その荒々しさは、第一ラウンドの神秘さを無くした代わりに、豪快で荒波の様な。歓声が出て、興奮する。盛り上がるようなダンスであった。


 Xと光それぞれに良い所が有り、それぞれが相手がなしえない真反対な事をやってのけた。

 それじゃあ、第3ラウンドはどの様なダンスをするのか。


 先行のXは光がダンスの途中に何かを考えていたようで、その期待は膨らんでいく。


 さっきの様に、きっちりかっちりしたロックをするのか。

 もしくは、コミカルな要素を増やすことで、全体のダンスの評価を上げるのか。


 出てきたのは、皆が想像していなかったダンスで会った。


「ここで、従来のロックを出すか。」


 そのダンスは一番最初にやっていたロック。何の変哲もない、第2ラウンドでやったような特別性はなく、普通のロック。


 ただ、普通のロックではあるが、その熟練度はすさましい物だ。見れば見るほど引き込まれる。その世界観に。そのダンスに。


 すると何と言う事だろうか。


 パシャ。


 そんな音が聞こえてくるではないか。聞き覚えがある音、でも周りを探してもその音がなる機器、カメラを持っている人は居ない。


 なら、勘違いだと思ってまたダンスを見る、そしたらまたパシャっときこえる。そこでやっと気が付いたではないか。


 それは、Xのダンスから聞こえる。その綺麗なロックをしたときにパシャッと。一つ写真が。・・・なぜそんな音が聞こえてくるのか?答えは簡単。


 そのロックは本当に止まっているようで、写真の中のよう。

 そんなイメージがそのダンスからは湧き出てくる。すると、勝手に聞き覚えのある音が、「パシャ」っと。


 それほどまでに、インスピレーションが湧いてくるダンス。


 ☆


 ここまでのダンスを見るのは初めてだ。


「・・・どうしようか。」


 俺に、まるで写真の様なイメージを湧かせるダンスが出来るとは思えない。・・・そこまでの技術がある訳でもないし、そこまでの経験がある訳ではない。でもここで諦めるのは違う。


 どうやったらあのダンスを超える事は出来るのか。・・・俺は一つだけ勝てるビジョンは合った。でもそれが出来るか。出来ない方が強いだろう。


 練習でもやった事は無い。それにぶっつけ本番だと何が起きるか分からない。・・・それでもやろうと。そう思ったのはXさんのダンスが終わったその時であった。


 俺はさっきと同じように、ウェーブから入る。

 それは荒々しくもなく、だけど神秘的でもなく。ただのウェーブだ。・・・ただ、そのウェーブは曲が進んでいくごとにドンドン重々しく、暗く、そして、


 そこでやっと気が付いた。

 そこは深淵。何も見えない。・・・唯一見えるのはその水の中。少しだけの波。それだけだった。


 それは深海。


 何も見えず。何も聞こえず。声すら出ない。

 その空間は息苦しい。そう感じてしまうほど、




 ・・・ダンスは、ダンスの一番大切な事はなんなのか。それが今やっとわかったんだと思う。・・・今の俺は深海にいる様な気持ちで、楽しい、嬉しい、そんな気持ちは一切ない。俺が思うのは、俺のダンスは海であること。


 気持ちは伝達される。ダンサーが楽しく踊れば、その観客は楽しくなる。そのダンサーが、暗く踊れば、そのダンスは暗くなる。


 それなら、今の俺のダンスはどんなふうに伝達される?


「勝者 光」


 後から聞いたのだが、見ていた人たちは俺にダンスを何もない光すら届かない真っ暗な場所と言っていた。




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