第16話
16話
・・・俺は俺のダンスを。先輩の様に凄い技術なんて持っていない。
今日までずっと基礎の基礎以外は練習していない。まだ、出来ないと分かっていたから。
いま中途半端に大技を練習したとしても土台の基礎が固まっていなければ、真面の出来ないどころか、失敗して怪我をするかもしれない。これまでのスポーツでも、基礎をやらない奴は、馬鹿だと。
全ては基礎の動きからの派生だと思って練習してきた。なぜかって?・・・大技に、基礎が勝てないなんて事は無いからだ。
だから、今の《・・》俺が出来るダンスは凄い技を連発するような物ではない。ただ、誰にもできる技術をどこまで、凄く見せることが出来るか。
大技は最初から凄い。だから、観客が湧いてくれる。でも基礎はどこまで言っても、基礎だ。
「これが俺のダンスだ。」
でも、大技は基礎の派生なんだろ?
それなら、なんで基礎が凄くないと言われてしまうか。自分でもそれくらい出来てしまうからだ。
・・・でもさ、俺は小奈津さんのウェーブを見た時凄いと思った。あのうねりは俺には出来ない《・・・・》とまで思ってしまった。・・・それならさ、俺の基礎の技術を他の人には出来ないと思わせればいいんじゃないのか?
出来ない事が凄いのであれば。
・・・でも、基礎で出来ないって何?
基礎は基礎だ。それが出来なきゃ、ダンスのダの字も出来ていない。理解できていない。ダンサーが100人いて、その10人しか出来ない技が凄い技だ。
なら基礎は?100人中100人が出来る。そんな技術で相手に出来ないと思わせるのは出来るのか。
・・・最近知っただろう。教えてもらっただろう。
他の人には出来ない自分だけの個性の使い方を、あの三兄弟に。
3兄弟のダンスを見た時最初に思ったのは知らないダンス。でも凄そう。と言う幼稚な物だった。でも、兄弟たちがやっていたのはただ「流れ」を読むだけ。
自分、相手、そして曲。
それぞれの流れをよんで、一瞬波長があった時に動く。言ってしまえばただそれだけ。それだけなのに、凄いのだ。
だけど、今の俺はそんな大勢の流れを読むことなんて出来ない。
でも、いいのだ。「流れ」を読むのは3兄弟の個性だ。
それを真似しても、さっきやった阿部先輩の真似と同じで3兄弟の劣化となってしまう。
だから、俺は俺の個性を、俺にしか出来ない高みにある個性をダンスにして。
その時。
俺に羽根が生えた気がした。
次の瞬間。「キャー」「ふぉ~!!」とまるで大技をしたときと同じような歓声が。
俺は、これまでがんばってきたアイソレに、ポップのヒット。
そして、小奈津さんに教えてもらった腕と体のウェーブを。ただ、音に合わせて一つのムーブとして踊っている。
☆
・・・昔俺はとあるチームメイトに言われた事が有る。
「1人で先行して行かないでくれ。サッカーは1人でやるスポーツじゃ無いんだ。」
別に俺はチームメイトをないがしろにしていた訳では無い。ただ、俺がボールを持った方がいいと思った時が多かっただけだ。・・・でも、それがダメなのかと思い、それからボールはそこまで多く持たない。
そう意識してサッカーをした。
俺はそれがチームのためになるのだと思っていた。でもそれから勝率はガクッと下がっていき、ついには全く勝てないほどにまでなった。
でも、それがそのチームのやりたい事だと納得していた。
毎回試合には負けるが、ちゃんとボールを回せて試合中に全員ボールに触れる。それがこのチームがやりたいサッカーだと。
でもそんなある日、いつも通りサッカーの試合が終わった時。俺に「サッカーは1人でやるスポーツじゃない」といった男の子がこっちに来てある事を言った。
「なんで前に出ないんだ!あの場面、お前が前に出れば決めることが出来ただろ!!」
意味が分からなかった。別に試合中ダラダラとボールを回していた訳では無い。
ちゃんと勝てるように、前に出たりしていた。このチームのレベル《・・・》に合わせて。
・・・ボールを回し始めたある時。俺がボールを渡したのになぜかちゃんと取れる人が少なかった。なぜなのか?俺が想定していたよりも、チームメイトの身体能力が行くかったからだ。
だから、そのレベルに合わせてボールを回し、そのレベルに合わせて前に出ていた。
だって、それが協力でしょ?
だから、その時言われた事は良く分からなかった。・・・だから、そのサッカークラブを抜けた。しょうがない事だろう。
俺に走るなと言ったのに、走れと言ってきたのだ。意味が分からなかった。・・・でも、サッカークラブをやめたが、サッカーは続けたかった。
だから、強い人が集まっていると言われているクラブに入る事にした。
ここだったら、本気で走っていいんだろう。そう思って。・・・でも。
とある試合のある日。それは俺のデビュー戦だった。
俺はチームの期待に満ちて期待されて、その期待に応えられるように本気で走った。すると、どうなっただろうか。
周りに人が居なくなったのだ。
本来なら・・・いや、相手に詰める時、普通なら何人も前に行って前線を上げて圧をかける。それがサッカーでは教え込まれていたはずだ。
なのに、詰めている時に誰も前に行かなかった。まるで、俺一人でサッカーをやっているような。
前のチームと同じ状況になった。
あの時から、周りに合わせる事が日常となっていた。どんなスポーツでもそうだ。
たとえ個人スポーツの卓球でも、「お前と一緒にいると調子が狂うと言われ。」
スポーツなんて面白くない。そう思った時だ。
そんな時、俺は小説に出会った。
その物語は俺を引き付ける物ばかりであった。知らない言葉、知らない人物。
本当にこんな人がいたら、俺は楽しくスポーツが出来ただろう。
・・・だから、希望を抱いた。
全国には俺の様な人がいるのではないのかと。
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