第15話



15話



「阿部先輩ダンスを見せてくれますか」


それは、一種の挑戦だった。

俺がどの位置にいるのか、今の俺なら何となく分かる気がする。阿部先輩のダンスの凄さが。


前見た時はただ、凄いで終わってい。でも、本来はそれで終わっていいわけが無いのだ。自分より、凄い人がいるなら、その人のダンスを見なければ。


前は凄いとは分かったが、何がすごいのか、そして何をしているのか分からなかった。


「いいぜ。お前からの挑戦状として受け取ってやる。」

「ありがとうございます。」


俺は先輩がどれだけすごいのかを測る。そして、何が凄いのかを調べる。

それは阿部先輩に対しての、挑発とも受け取れる。・・・お前のダンスくらい直ぐに超えてやる。そう言う意味にも捉えられる。


先輩はそう捉えたのだろう。そして、俺はその挑発をしたことを受け入れた。


「今ここで良いか?」


今は部活中と言ってもフリーで自主練をしていい時だ。周りでも教え合ったりして練習している。


「心先輩。少しお願いします。」

「はぁ・・良いけど、あんまり暴れないでね。」


心先輩の許可は取れた。・・・すると、心先輩は今の状況を察してくれたのか、流していた曲を変えて阿部先輩が好きそうなテンポが早い曲にしてくれる。


それは俺たちにとっては周りが歓迎してくれているようだった。わざわざ、スタジオの一角をこのためだけに開けてくれるんだから。


「・・・」


そのドラムの音がなり始めた時動き出した。

・・・まえ見せてくれたダンスと同じ、ジャンルで目新しくはない。・・・だから、だからこそ、ちゃんと見て自分のものにしなければ。


先輩はハウスミュージックをハウスらしく踊っている。曲に合わせて足を多く使って。


・・・ここまで使っているムーブはほとんど同じだ。まだ俺でも分かる。ただ、一つ一つの熟練度が凄く、俺でも出来そうなムーブなのに先輩がやるだけで感じ方が違う。

これが経験の差なのかと痛く感じてくる。


だからこそ、かっけぇ。そう感じてしまうのは無理が無いだろう。


「どうだ!」


俺はその言葉を聞いたとき、思わず倒れてしまった。

見る聞く、事に集中しすぎて、その集中が途切れた時全身から力が抜けてしまったのだ。

座って見ていたので、頭をうつことはない。


「先輩はやっぱすげぇ。」

「はは、そうだろ!まだまだ、背中を見せ続けてやるよ。」


ただ・・・・ちゃんと見えた。

望んでいた物がちゃんと見えた。


「そうだ。光ヶ丘も一曲踊っとけ。この後、教えるのにも見ておいた方が良いしな。」


その言葉はからかいと、がんばれが混ざった言葉だ。

阿部先輩は俺が即興で踊る事はまだ出来ないと思っているのだろう。


ダンスを初めてまだまだの赤ちゃんだ。まだ、音も分からないし、踊り方も、テンプレも、分からない。まだ立ち上がれない。踊る時期ではない。


だけど、・・・俺は阿部先輩が踊っていた場所に立ち、俺は踊れるぞと態度で示した。阿部先輩はからかったつもりで行ったみたいで、本気でやるとは思わなかった。そんな顔だ。


「心先輩今のをお願いします。」


俺はそのからかいの意思返しに同じ、曲を選択する。たぶん阿部先輩は分かっただろう。

俺の方が上手く踊れると言われている。


挑発には挑発を、なら、その後にされた挑発には、やはり挑発であえさなければ。


「ちゃんと見てくださいね。阿部先輩。」


それは愛のの告白の様に、じっと目をみて。


「面白くなってきたわね。」


それは心先輩の声だろう。・・・完全に同意見だ。これから踊ると言うのに心臓がバクバク言っている。

言ってしまったと。


それから直ぐに曲が流れ始めた。オーダー通りちゃんと先輩とおなじ曲だ。・・・これは先輩との戦いだ。


先輩よりも観客を盛り上げる事が勝利。だからこそ、先輩と同じことをしても意味が無い。ならどうするか。


俺は俺だけのダンスを・・・まあ、最初はこれだよな。


「先輩の真似っこ。」


え?先輩と同じ事をしても意味が無いって行ったばかりなのになぜ、真似をしているのか?・・・だって、そっちの方が、先輩を引き付ける事が出来るじゃないか。


それにここにいる、ダンス部全員にこれは阿部先輩と俺とのバトルだと、分からせられる。ただ、阿部先輩のダンスをみてお終いじゃない。


ほらw、先輩も怒ってる。


・・・そろそろかな。こんなことをやっていても、ダレるだけだ。


俺は一瞬だけ立ち止まり、そのダンスを終わりにする。阿部先輩の真似っこはお終いだ。今からは俺の「ダンス」だ。




それは突然始まった。光ヶ丘君の一言によって。

最初は聞いていなかった。教えてほしいと1年生の何人か行ってきたから、ここよよく引き受けて練習に付き合っていたから、阿部くん立ちの事なんて見ていなかった。


ただ、その時間は皆が場所を取り合って練習して居るはずなのに、急にこっち側に人が寄ってきたことで、何かあるんだな。と気が付いたのだ。


その広がった空間の中央には阿部君と光ヶ丘君がいて、なにかを話していたみたいだ。近くの沢井さんに聞いてみると、何でも阿部君が今から光ヶ丘くんにダンスをみせると言う事になっているらしい。


「はぁ。もう何やってんの。」


周りの練習したい人たちに邪魔だから、やめさせたいがなぜかもうサイファーが出来上がっていた。サイファーとは・・・まあ、人が円状に集まってその真ん中で踊るっている。


まあ、ダンスをやっていたらよく見る奴だ。

これじゃあ、やめさせようにも私のノリが悪いみたいになっちゃうから、ダンス部の部長としてはそのまま続行させたい。


ただ、ここで注意をしないとそれもそれで、部長としてはどうなのか。・・・私自身も見たいしそのまま注意しなくていっか。これも、ダンスの教育として教えればごまかせるかな。あんまり高頻度でこういう事をやられたら流石に注意はするけどね。


「ごめんね。一旦中止にしていい?あれの面倒を見なきゃいけないから。」

「いえ!私たちも見たいと思っていたんで!」


いい子ちゃんだわ~。可愛い。・・・ってそうじゃない。阿部君の好きなミュージックを探さなきゃ。


・・・よしこれで、・・・今かな。


私が曲をかけた瞬間、阿部君の空気感が一年生でも分かるくらい変わった。今まで、のほほんとした、阿部君しか見てこなかった1年と2年はその代わりように驚いている。


・・・私も初めてダンスの時の阿部君を見た時は驚いた。私には無い個性があるんだなと、思った。でも、それでも、嫉妬はしたが嫌いになる事は無かった。


だって、阿部君のダンスに魅了されてしまったから。阿部君のダンスは、私のダンスは違う。雰囲気と言うか、そもそも体の使い方が違うのか。


分からないけど、何か引き付ける物がある。


・・・次は、、光ヶ丘くんが踊るのかな。光が丘君のダンスは見たことが無いけど・・・まだダンスを初めて歴が短いよね。大丈夫かな。


だけど、その予感はいい意味で裏切られた。


「心先輩今のをお願いします。」


おぉ!同じ曲にしてくるとは。ちゃんと阿部君の事を煽って行くね。


良いよ。そう言うの好きだよ。なんか男同士でしか見れない挑発の仕合は。・・・女同士だとダンスが全部みたいな感じで、型ぐるしいんだよね。

光ヶ丘君良く分かってんじゃん。ストリートダンスは元々黒人に対しての差別で生まれた路上でのダンスなのだ。


だから、その時の白人の様な上品さはない。だったら、その時のストリートはどういう物だったのか。言ってしまえば、ダンスによるぶつかり合い。


お前より俺の方がすげえ、つまり対決。


・・・音楽が流れ始めた。あれほど阿部君の事を挑発したが、ここで上手く湧かせる事が出来なければ、ただ白けるだけだ。・・・だた、光ヶ丘君が阿部君よりも上手いダンスを踊れるとは思えない。

どうするのか。・・・!!まだ煽る!

さっき阿部君がやっ居たダンスを見よう見まねで、こんな感じだろwwと悪意を持って。ああ、阿部君もおどろいてるよ。


・・・でも本当にどうするんだろう。・・・あれ、止まった。もうネタが尽きたとか、緊張して踊れないとかじゃないよね?!流石にここまで煽ったら私でも庇いきれないよ。


そう、もうおわったと思った。でも、しょうがないと、まだ初めて半年もたって居ない初心者に即興は無理だったんだと。そう思い今回は諦めようと思ったその時であった。


阿部君と同じように、光ヶ丘くんも空気感が変わった。

さっきまではヘラヘラと言うか、おちゃらけた不良と同じ感じであった。でも今は・・・真剣に自分を出そうとしている感じ。


私はこの空気感を知っている。

つい最近も味わった。自分が本当に苦手なその空気は苦手だからこそ敏感に感じ取ってしまう。


「自分の音が分かったんだ。」


私がどれだけ練習しても、その域にはたどり着けなかった。それなのに始めたばかりの、まだハイハイも出来ていないと思っていた。ちゃんと自分が面倒を見なければと思っていた、人はもうたどり着いている。


「才能って残酷だよね。」


最低限。私が卒業するまでは光ヶ丘君でも追いつけないだろう。そんな事を考えてしまうくらい。・・・心臓が痛い。


だって、もう。さっき見たいな、阿部君を挑発した様なダンスとはほど遠い。これが俺のダンスだと言っている。


私は自分の表情が暗くならないようにするので精一杯だった。



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