第9話
9話
「まだ来ないな。」
「そうみたいです。」
心先輩はまだ用事が終わらないみたいで、柔軟が終わっても来なかった。
「何をやっているんですかね?」
「なんだろうな。しらねぇや。」
まあそこまで気になる訳でもないし、良いんだけど。
来なかったら来なかったで、別の問題が発生するんだよな。・・・何をするのか分からない。
ここに読んだのは何か、やるためなんだろうけど、何も聞いていないので待つしかないのだ。
「ただ、待つのも暇だしな。・・・そうだ、少しダンスについて教えてやろうか?」
「・・・お願いします。」
昨日のあれを見ると、そこまで率先して教えてもらいたいとは思わないけど、一応ダンスは上手いみたいだから。
「よし!俺も昨日の教え方は流石にダメだと思って、少し調べたんだよ。」
「それで、どうだったんですか?」
「いや、俺が教えようとしたところは初心者がやるには速すぎたんだ。だから基礎から教えなきゃいけないんだよな。」
当たり前でしょ!これだから感覚派は。それに比べて剛毅さんの教え方は、正直今までにない程分かりやすかった。先輩は基礎からじっくりやる様な凡人じゃなくて、1を知ったら10を理解する天才なんだ。天才の感覚は正直教えられたもんじゃない。
スポーツ歴が長いから、そう言う人とは結構会ってきたけど、その人ら皆に共通するのは全員自分を基準にするから、真面に教えることが出来ない。
「だからさ、まずは俺の音について教えようかと思ってさ。」
・・・あれ?意外と真面だ。
正直昨日と同じように、急に1飛んで5から教えられると思ってた。だけど、一番基礎の音から教えられるとは。
「だけどさ、自分の音を教えるのはどうしたら良いのかと思って・・・。何かいい方法は無いかな?調べても出てこなかったんだよね。」
「あ~それなら。一曲踊ってくれませんか?」
先輩はストリートの方の人だと聞いていたので、即興でも踊れるのだろう。・・・即興で踊った様子を実際に見るのは初めてだけど。
「お!いいね。だったらちょっと待っろ。(ふんふん♪)」
やっぱり天才は実戦が舞台だよな。知り合いの天才が言うには「実戦に勝る練習なし!」と言う事だったので、たぶん細かい事とか、理論的な事は嫌いなのだろう。
だって、分かっているのだから。言われなくても体が分かっているし。だからこそ、昨日先輩はムーブを教えようとしていた。
だって、音の事とかは実戦でしか分からないと分かっているのだから。
「よし流すぞ。」
テンポが速い曲だ。・・・ハウスか?
そう思った時が阿部先輩の印象が悪い、そう思う最後の時だった。
曲が流れた瞬間、阿部先輩の時だった。
変わったのだ先輩の気配が。あののほほんとして、でも少しカッコいい雰囲気が醸し出された気配がその瞬間がらりと変わった。
そしてその瞬間自分の音と言う意味が本当の意味で分かった気がする。
さっきまで、自分のダンスと言っていたが俺が言っていた意味は「俺はこういう存在だ!」と言う意味で使っていた。
だけど、今は、「これが俺だ。」と言う意味に変わった。・・・正直上手く語れたか分からない。俺だって阿部先輩と同じで、感覚でしか分かっていないのだから。
「・・・理解できたか?」
「はい!ですが何となく、と言うかまだ良く分かっていなくて・・・ふわふわした感じなんですよね。」
「お!そうか?まあ、これからだよな。」
それにしても、これで阿部先輩が本当の天才だと分かった。
正直こんなところで天才と言われる人類に合うとは思わなかった。これまであってきた天才たちの殆どは全国に行かなきゃ会えなかったし。
一部の人は全国に行っても会えなかった。だから、こんな部活で会えるとは思わない。正直、学校の部活程度だから・・・と思っていた節はあった。
「先輩には敵いそうにないなぁ。」
そうつぶやいた瞬間、後ろの扉がガタン!と開いた。
遅れていた、心先輩が来たのかな?と思ったが、・・・いや心先輩はいたが隣に知らない女の子がいた。
「はぁ、光ヶ丘君も十分天才の方だよ。
普通の人は、自分のダンス何て分からないしそれを自覚する事も出来ないよ。少なくとも私がそこにまで行ったのはダンスを初めて3年がたった頃だよ。
それでも、自分のダンスは分かんなかったし。」
だが、入ってきた一言目は女の子の紹介ではなく俺の賞賛?であった。
俺と阿部先輩の声が聞こえていたのか、心先輩が愚痴の様にドンドン否定していった。その様子に、ここにいる、男子二人はドン引きだった。
だって、芋虫でも噛んだような顔で喋っているんだもん。
自分より才能がある人が入ったことに対しての喜びと、じぶんの才能の無さに対して悔しさがぶつかり合っているのだろうけど、・・・どうしたらいいの?
女性の扱いなんて分からないし。
「・・・阿部先輩、お願いします。」
「え、俺が・・・心そんなに落ち込まないで。心だって練習すれば直ぐに・・・」
よし。大変そうなことは押し付けれた。
それじゃあ、ダンスの練習でも使用かな。さっきの阿部先輩のダンス見て速く上達したくなったし。休んでいる時間は無いぞ!
「こんにちは。」
隣から聞こえたその声は心先輩が連れてきていた女の子。制服が目新しいのでたぶん俺と同じ新入生なのだろう。
「こんにちは。俺は光ヶ丘です、お名前は?」
「あ!私は
て言うか、本当に高校生なのか疑いたくなるくらい小さいな。
150前後なんじゃ無いかな。170ある俺からすれば、見下してしまうくらいの大きさだ。
「よろしくね。そう言えば昨日は居なかったけど、今日から?」
「えっと、そうなります。・・・きのう心先輩から誘われて、ついてきたんです。」
「あ、俺も阿部先輩。そこの男の人に連れてきてもらったよ。」
へ~先輩から誘われる事なんてあるんだ。・・・昨日とかダンス部が勧誘をしている様子はなかった。だからてっきり勧誘はしないのかと思ったけど。
でも、他に人がいる様子はないから勧誘したのは小奈津さんだけなのかな。・・・もしかして、小奈津さんってダンスが凄い上手いから勧誘された系の奴?
「ダンスは結構やるの?」
「始めたのは最近です。知り合いに誘われて。」
あれ?上手いとかそう言う訳では無いの?・・・いや歴が短いからと言って下手につながる訳じゃない。俺だって、短期間で上手くなる側の人間なんだから。
もしかしたら、天才側の人なのか。・・・考えてもしょうがないな。
「今から練習できる?出来るなら、更衣室はそっちね。」
「ありがとうございます。・・・心先輩と阿部先輩は大丈夫なんでしょうか。」
「ん~直ぐには終わりそう無さそうだし、先に練習してて良いんじゃないかな。」
☆
小奈津さんは更衣室に行ったし、先輩の2人は話し合っているから。・・・昨日剛毅さんに教えてもらった練習でもしようかな。
折角教えてもらったのに、やらないなんてもったいないし。
使って良いのか分からないけど、まあ良いでしょ。と言う感じでスピーカーから教えてもらった音楽を流す。
「♪」
良い曲だ。
えっとまずは、音の取り方だよな。部活でもやったダウンとアップの練習から。
オンカウントで腰を落として体でリズムをとる。・・・それになれたら。次はダウンだ。エンカウントで体を上げて、リズムをとる。
・・・感覚は分かってきたとはいえ、アップは難しいな。無意識にダウンでリズムを取っていたから、そのリズムが体に染みついていてリズムをエンに合わせずらい。
次は、、、ポップコーンとか言ったっけな。
ダウンとアップを切り替える応用だ。
ワン《・》&ツー《・》&スリー《・》&フォー《・》&《・》ファイブ&《・》シックス&《・》セブン&《・》エイト&《・》ワン《・》&
こんな風に、連続してリズムを取る事でダウンとアップを曲中にかえる事が出来るのだが。これが結構難しい。
・・・さっきのダウンアップと同じ動作でやるのは慣れたから出来る。だけど、教えられた動きをすると途端に出来なくなる。
主に、切り替えるところで頭がこんがらがる。
「そこはこういう風に一つ一つの動きを分解した方が良いですよ。」
「ん、・・・ありがとう。」
アドバイスをくれたのは小奈津さんであった。もう着替えは終わったようで、こっちに戻って来ていたようだ。
・・・動きを分解して。
「出来た。」
心のどこかで突っかかっていていた事が壊れた。鉄の様に硬かったそれは俺がきずかなかった一つの助言で簡単に。
うん、コツをつかんだ気がする。なんか次のステージに来たような清々しさがある。・・・やっぱりいろんな人と一緒に練習した方が良いな。教えてもらえる。
「小奈津さんありがとう。」
「うん。なんか動作が重かったから、ちゃんと認識出来ていない部分があると思って。」
理解できていないのか。・・・確かに、分解したときは、ちゃんと一つ一つを見直して理解したけど、分解する前は一つの動きだと思って、硬い縄の様な感じだった。
前の動きと後の動きが邪魔をして、思うように動けていなかった。頭の中では分かっていたはずなのに、体が、その通りに動かなかった。
「確かにそんな感じだった。」
うん、もうスムーズに出来る。どのカウントで切り替えようとしても頭がこんがらがる様な感じがしないし。
「一緒に練習しよ。」
「あ、うん。・・・。」
一緒に練習って何をするんだ?初心者だから、知っているムーブも少ないし。・・まあ、いっか。俺は俺でやろ。
・・・小奈津さんももうやってるし。
次は、アイソレをやろうかな。アイソレに関しては、今までの運動技術を使ったりするようなことじゃないし。可動域を広げるために、毎日やった方が良いしね。
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