ソース・イズ・ソウルメイト
「いい先生ね」
「……あぁ」
職員室を出たところで神原が言ったそんな言葉に、僕は素直に頷いた。
「うん。中学で、あんな先生がいたらなって……そう思っちゃったよ」
「!」
小太郎の言葉に僕は驚いた。そのまま思わず小太郎に抱きつく。
「ちょっ? アマツくーん!?」
「な、何をしていますのっ!?」
小太郎と神原の困惑する声で、僕は我に返った。
「あ、いや……その、さすがだな親友、って……僕も全く同じこと考えてたから……嬉しくて、つい」
「はっはっは! ソウルメイトだからな!」
「またそうやって、私だけ除け者にして!」
大笑いする小太郎に、怒る神原。
そう……風間小太郎に、神原天乃。
そして……小山内先生。
本当に、この高校に来てよかった……!
僕は涙ぐんでいる自分に気づいて、それを二人に悟られないよう、神原に背を向け、小太郎を抱き締める。
「おいおいどうしたんだいベイビー?」
「いつまでやってるのよ……」
モテる男のような包容力のある声を出した小太郎と、何故かハラハラしている神原を僕は無視する。
……あとは、ハナさえ笑っていれば、言うことはないな。
「…………」
そうだ。まだ完成じゃない。
ハナの為だなんて言うつもりはない。僕の望む理想の高校生活を実現する為だ。
その為に、彼女にとっての万難を排除し、何の衒いもなく顔をくしゃくしゃにする……あの笑顔を取り戻すんだ。必ず……!
「ところでソウルメイト」
「何だよ親友」
「だ、誰かに見られたら、誤解されますわよ……?」
僕らは未だに抱き合ったままで会話をする。神原が周囲に視線がないかキョロキョロしているのがちょっと面白いが、まあそれはいい。
「更ナル情報収集ヲ望ムナラ、小太郎一ツ、アテガアル」
「久し振りだな、その喋り。で、アテって何?」
「それを話すには……条件がある」
小太郎の声が、にわかに緊張を帯びる。
「何だよ、ここまで来て。言ってみろ」
「『怒らないよ』と約束してクダサイ」
「……何か、すごく嫌な予感がするよ」
僕は小太郎にしがみついた──いや、捕まえている腕に力を込める。
「約束してクダサイ! でないとこの話はナシ!」
「分かったよ! 怒らない! 早く話せ」
「さっき葉子ちゃんが顧問しているって言ってた……新聞部」
予想外の方面の話だ。やはり独力でなく、二人に助力を頼んで正解だったのかも、なんて考えが僕の頭に浮かぶ。
「あぁ、言ってたな」
「その新聞部の部長が……とんでもない情報通であり、情報の収集に並々ならぬ情熱を注いでいるんだよ」
「へえ、そうなんだ。じゃあその部長を頼れば色々と新しい情報が手に入るかもしれないな!」
「やるじゃない、風間くん!」
僕も神原も明るい声を出す。
「…………」
だが小太郎の表情は晴れない。いや、笑ってはいるのだが、何か様子がおかしい。
……あ。
「えー、と。新聞部の部長が……とんでもない情報通であり、情報の収集に並々ならぬ情熱を注いでいて、その部長を頼れば色々と新しい情報が手に入るかもしれないんだな」
ある疑問が浮かんだ僕は、それをそのまま口に出す。
「そうだな! そうに違いない!」
小太郎が大きく肯定する。どこか声も表情も硬いが。
「で──なんでお前がそれを知ってるの? どこから聞いた?」
軽いジャブを打ってみる。効果は覿面だったようで、小太郎が滝のような汗をかき始める。汚い!
「……なぁ、アマツ。神原さん」
「ん?」
「何ですの?」
「俺達がソウルメイトとなった、あの柔道ゴリ事件を覚えているか?」
何だ何だ? 何を言おうとしている?
「うん」
「覚えてるわよ。いつの間に私もソウルメイトになったのかは覚えてないけど……」
「あの事件以来、アマツは学校の有名人になった。アマツ程ではないけど、神原さんも」
「確かに……毎日下駄箱に手紙が届くわ、休み時間の度に連絡先が届くわ」
「……まぁ、ね」
神原が言葉を濁す。もしかしたら神原も僕ほどではないにしろ、ラブレターや連絡先など、アプローチを受けていたのかもしれない。
「おかしいとは思わなかったか? あんな、男女混合体制だったとはいえ、二、三クラス分の人間しか見ていなかった出来事が、いつの間にか全校生徒に共有されている」
「確かに……!」
「あの場にいた誰かが、別クラスの友達に話したとしても、多すぎますわね……!」
「つまり! それこそが校内新聞の拡散力であり、新部長の情報網の広さであり! 彼女の情報への貪欲さを表しているのだーっ!」
「何だってぇ!? でも──」
「何ですってぇ!? でも──」
僕と神原が顔を合わせる。
『僕(私)は、新聞部の取材なんて受けてない(わよ)ぞ!』
「はっはっはっは! そう! 新聞部に熱烈インタビューを受け、身を呈して俺を救ってくれた
『お前の仕業かぁっ!』
僕と神原は、ツープラトンボディブロウを小太郎に叩き込んだ。
「ぷべらっ!」
情報の出所であることが判明したソウルメイトの、何ともかっこいい断末魔が廊下に響いた。
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