僕は自分が思っていたよりアホだった
「……まぁ、僕とハナは、幼馴染で、家族で……大体今話した通り、そんな感じ」
僕は小太郎に尋ねられるまま、ハナと僕の間にあったコレまでのエピソードをかいつまんで話すことにした。
「……いや、いやいやいや」
小太郎は興奮気味でありながらも、どこか呆れの色が窺える表情でトントンとテーブルを叩いた。
「……何だよ」
僕は気恥かしさと、自分とハナの間柄を他人にとやかく言われたくないのを察せ、と若干不満げな声を出した。
「……それ、もう完全に恋人だろ」
小太郎がゆっくりじっくりと、僕の目を真っ直ぐ見ながら言った。
「……恋人とは、ちょっと違う気がしない? 何ていうか……
僕は、チュゴゴ、と音を立てたストローから口を離し、ドリンクを置いてそう返した。
そんなやんわり否定をする風な返事をしておきながらも、内心僕は悪くない気分というか、まんざらでもない心持ちだった。
ここで小太郎が「いやそれはどう見ても恋人だ。実際にそうなるべきだ」と断言してくれるのだったら……背中を押してくれるのだったら、僕がうやむやにし続けている一つの問題に対し、一歩を踏み出すきっかけになるやも、というところまで考えていた。
しかし小太郎の次の言葉は、僕の予想……希望とは若干コースがズレていた。
「……じゃあ、ハナさんを好きだって男が出てきて、付き合おうとしたりアプローチしてたら?」
「許すワケないだろ。何言ってんだお前は」
僕は小太郎の目を言いながら即答した。何言ってんだこいつは。
「……いや、アマツくん。キミはおかしいことを言っている」
「何がだ。失礼な」
「……仮に俺がその、ハナさんにアプローチしている男だとしよう。俺が『許すワケないだろ』と立ちはだかるキミに言うワケだ。『キミは、ハナさんの何なのだね』と。さあどうする?」
小太郎がこめかみをカリカリとかきながら、さらに問い掛けてくる。
「兄であり、たまに弟だったりもするぞ」
「お父さんが『お前のようなヤツに娘はやらん』て言うみたいな?」
「そうそう、それそれ。分かってるじゃないか小太郎」
「分かってないのはお前だ」
小太郎が若干憐れむような、可哀想な人を見るような瞳で僕を見る。
「なぬ!?」
一体、何が気に入らないってんだこいつは。
「じゃあ、ハナさんが言ったとしよう。『テンちゃん。あたしこの人が好きなの。どうか認めて欲しい』って」
小太郎のその発言を聞いた瞬間、筆舌に尽くしがたいほどの不愉快さが込み上げてくる。
……いや、小太郎はハナを直接は知らないからな。そんなことを言うワケがないってことを知らないんだ。そこを考慮して相手してやらないと。
落ち着け。キレるな。落ち着け。
有り得ないことだが、想像してみよう。
「んんんん……! まあ、アレだな。だったら何か一つでも僕に勝てる要素があるのなら、ハナを守れる男として認めてやらんでもない……かぁ? よし、勝負しよう。完膚なきまでに叩き潰してやる」
「もうお父さんじゃん。それもかなり性質の悪い」
「家族なら普通です! それに、ホラ……ハナはアホだから。アホだし能天気だし、人のいいところしか見ようとしないから、もし善人の皮を被ったケダモノに騙されていたら大変だろう! だから代わりに僕が審査してやろうってんだよ! 何がおかしい!」
「ほぉ……ハナさんはアホなのか」
「お前がハナをアホ呼ばわりするんじゃないよ……!」
「えぇ……何この理不尽」
自分でも驚くくらい低い声が出た。いかんいかん。
「アホだけど、そこがいいところでもあるんだから、ただのアホではないんだよ。そこは分かれ」
「おお、お熱い」
小太郎がニヤつく。
「何なんだよさっきから。一体何が言いたい。イライラさせるな」
「まぁまぁ、まとめると、さ。アマツくんはハナさんに対して、家族のような居心地の良さを感じていて、そんな親密なハナさんに、どっかの馬の骨が言い寄ろうものなら実力行使も辞さない、ってくらい大切に思っているんだよね」
「そうだよ! 分かってるじゃないか!」
さすがは友達、ちゃんと伝わっていた!
「……じゃあ、なんでアマツくんは、中学の時、そのハナさんに何も言わずに、どっかのお嬢様と付き合っちゃったの?」
「…………」
「…………」
「……アレっ!?」
本当だ! なんでだ!?
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