小太郎先生の恋愛講座
つい数秒前まで、僕は自分が完全に正しいことを言っていて、それを理解出来ないような顔をしているヤツをアホだと思っていた。
目の前の風間小太郎に対して、一体何が理解出来ないというのだ、とイラついていた。
だが、その直後に彼の口から出た言葉に、自分の愚かさを思い知らされた。
愚かさと、幼さと、傲慢さを突き付けられた。
「ほ、本当だ。なんでだ!? アレ……小太郎、僕はなんで──」
仕舞いには小パニック状態になり、さっきまで心の中で小馬鹿にしていた小太郎に助けを求める始末だ。なんと情けない有り様か。
「落ち着け、落ち着こう。深呼吸。俺は落ち着いてる」
小太郎はどうどう、と立ち上がりかけていた僕を何とか制して、再び椅子に腰を落とすように促してくる。
「う、うん……すー、はー」
僕は言われるがまま椅子に腰掛け、深呼吸した。
……確かに、どういうことだ?
僕はあの時、友人が欲しいという願いに破れ、絶望し、それを諦めようとしていた。
そんな時、あなたは素敵だ、孤独じゃない、自分は味方だと元気づけてくれる人がいて……
「……そうだ。その人に告白されるままに付き合ったんだ」
「ううん、妬ましい……が、その時にハナさんの顔が脳裏をよぎることは無かったの?」
「…………」
……あった。
「あったよ……でも」
「でも?」
「その時は、ほら、ハナのことは今以上に、家族としか見ていなくて……」
「恋愛対象……てか、自分が誰かと付き合ったからって、ハナさんがどうこう思うことはない、って思ってた?」
「そ、そう。それ」
……何故こうも、かつての僕の思考が分かる?
僕は何だか不安になってきた。というのも、僕の話を聞いている小太郎の表情に、段々と呆れの色が浮かんでくるのを感じとっていたからだ。
小太郎ですら愛想を尽かす程の失態を、かつての僕は知らず知らずの内に犯していたのだろうか?
だとしたら、そのことに全く気づけずにいた自分の感覚が怖い。
「……じゃあ、立場を逆にしてみようか」
「……逆に?」
「……うん。同性の友人作りに次々と失敗していたハナさんを、どうにか慰めようとしていたアマツくんだったが、『ごめんねテンちゃん。あたしは今、女の子の友達が欲しいの』と歯牙にもかけてもらえない」
「……!」
小太郎の言葉に、僕はギクッと心臓の鼓動が速くなるのを感じた。
それと同時に、もし自分がハナにそう言われた場合には味わっていたであろうショックを、今更になって自覚した。
……てか、なんで
僕は
……ああ、そうだよ、僕はそう言って心配するハナを相手にしなかった。
僕はあのとき、知らない内にハナを傷つけていた?
「そして性別とかいう、自分ではどうしようもない部分で突き放されてしまったアマツくんだったが、そんな無力さに絶賛、打ちひしがれ中のところに、さらに追い打ちがかかる」
「…………」
既に反応すら出来ない。まさに今現在、無力さに打ちひしがれている神乃ヶ原天、十五歳がここにいるぞ。
しかし、無慈悲にも小太郎は話を進めてしまう。
「彼女は『テンちゃん。あたし、彼氏出来たんだ!』って、満面の笑顔でそう言った!」
「…………」
「『同性の支えが欲しい』と異性のキミを突き放した彼女が、『異性の支えが出来ました』と報告してきたワケだ」
「…………」
「……どんな気分?」
「────」
僕は俯いたまま、小太郎の顔も見ることが出来ないままで、ポツリと呟いた。
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