続・迷探偵神乃ヶ原天の事件簿~中ボス化する助手~

「さて、作戦会議だ。ワトソンくん」


 僕はそう言ってバーガーとポテトに、ドリンクの乗ったトレイをテーブルに置き、向いに腰掛けた風間小太郎に熱い視線を注いだ。


「それなんだが、ホームズ……」


 僕を待っている間に、既にポテトを平らげていた小太郎が、少し気まずそうな視線を注ぎ返してくる。


 小太郎は僕と比べてすごい食べる。速度もすごい。


 おしゃべりさえしなければ、あっという間に平らげる。


 今まで比較対象がいなかったから気にもしていなかったが、コレは一般的な高校一年生の男子と比べ、小太郎が食べるのか僕が食べないだけなのか。


 多分、後者だ。父さんがモリモリ食べるのを見て漠然と「僕も大人になったらこんなに食べるようになるのかな」なんて暢気なことを考えていたが、僕は実は小食だったのだ。


 いや? でも食卓に大好物が出たときはおかわりくらいするぞ……?


 そもそもどのくらい食べれば小食、標準、大食にカテゴライズされるのか知らないし、さして興味もない。


 今僕が興味を持ったのは、『比較する相手がいないと人は簡単なことにも気づけない』ということだ。


 このことに気づくと同時に、僕は友人たちと過ごすコレからが少し楽しみになった。 


 まあ、それも今は置いておこう。


 本人の知らないところで僕に大食漢認定されている風間小太郎だが、彼はこういう時にノリがいい。


 まだ友達になって、というか、出会ってそんなに日が経ったワケではないのだが……同年代の同性という意味では、かつてここまで相性のいい人間がいただろうかってくらいウマが合っている気がする。


 僕がカリカリしているときは、わざとふざけたことを言って毒気を抜いてくれるし、僕と神原が険悪な空気になったときも、茶化したり、ムキになっているのが馬鹿らしくなるように仕向けて来るのだ。


 その癖、本当に真面目な話をするのだと気づいたときは、すぐさまそれを引っ込めたりもする。


 本当に中学で孤立していたのが信じられないくらいのコミュニケーション力を持っているのだ。


 彼が浮いてしまったのは、本当に周囲のサルどもの精神年齢が彼に追いついていなかったからなのではないだろうか? と思えてしまうくらいだ。


「……何だい?」


 僕は椅子に腰掛けながらそう問い掛けた。


 話を戻そう。


 神原から自分の謎を暴いてみろと挑戦された僕、神乃ヶ原天は、助手の小太郎と作戦会議に臨むべく、下校途中のメックにいる。


 そしていざ会議を始めようとしたら、助手が気まずそうな視線を送ってきている。


 一体どうしたことだろう?


「俺は、何ていうか……答えと言う程に確かではないんだが、限りなくそれに近い……少なくとも重大なヒントになるワードに、既に辿りついてしまったかもしれない……」


「何だってぇ?」


 まさかの助手の方が名探偵で、探偵はポンコツだったなんて、今まで何回使い古されてきたネタだよ、などと頭の中でツッコミつつも、僕は目の前のポテトに手を伸ばした。


 考えてみれば、こんな探偵ごっこ。今までの僕だったら絶対に付き合ってないな。


 ……僕一人ならば。


 そうか。くだらないことも、誰かと一緒なら楽しいんだ。


 また学ばせて貰った。

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