迷探偵・神乃ヶ原天の事件簿
分からない。何故神原がハナのことを知っている?
実は僕の知らぬところで二人は仲良くなっていたのか?
いやいや。それはないだろう。
だって僕ですら、部活に忙しいハナとあまり顔を合わせる機会がないんだ。
神原は部活に入っていない。そして休み時間は大体クラスの女子と喋っているのを見掛ける。
二人に接点はないはずだ。
おそらく今、ハナと一番接点があるのは、同じ女子テニス部で活動している人間だろう。
次点でコートを共有している、男子テニス部の部員ってところか。
……アレ、何故だ。酷く不愉快な気分になってきた。
とにかく! 高校に入学してから神原とハナに接点があるとは思えない。
……高校入学以前は?
駄目だ。だとしたら分からーん!
「何をウンウン唸ってますの?」
背中に声を掛けられる。声の主は、今僕の考えの渦中にいる神原天乃、その人だ。
気がつけば、いつの間にやら授業は終わっていたらしい。
勿論考え事をしながらも、しっかりとノートは取っているのだが。
「授業どころかHRも終わってますわよ。あなた掃除の時間も机に向かってウンウン言ってましたのよ」
確かに、教室に残っている生徒の数がまばらになっている。なんてこった。そんなに熟考していたとは。クラスメイト達に悪いことをしたな。
「……神原、分からないぞ」
「何がよ」
「お前とハナの接点」
僕が忌々しげにそう言うと、何を思ったのか神原は愉快そうにいたずらな笑みを浮かべた。
「ふふふ、教えない」
「ええい、教えろ。癪な事実だが、正直気になるぞ」
「自分で突き止めなさいな。迷探偵さん」
精神的な優位にいることを自覚したのか、ますます神原はニマニマと口許を弛める。
……もう怒ってはいないみたいだ。自分から声を掛けてきたし。
「お前今、絶対迷う方の『迷』を使ったろ! いいだろう! 暴いてやる!」
だが挑戦されたのなら、それとコレは話が別だ。
「あなたに出来ますでしょうか、おニブのテンちゃんには荷が重いと思われますわよ」
何だか本来の関係性を取り戻したかのように、僕達はお互いに挑戦的な笑みを浮かべた。
「やってやるさ。でもこの勝負に僕が勝ったら、この間のことは水に流すって約束しろよ」
「約束しますわ。神原の名にかけて」
いつかのように、いつものように神原が腕を組み、胸を逸らし、僕を見下ろしながら言った。
「ただの仲直りに随分と大仰で面倒な手順を踏むね、二人とも……」
いつの間にか隣にいた小太郎が、面白がるように呟く。
「うるさい。関係ないヤツは引っ込んでろ、小太郎」
「関係なくもないさ。アマツくんが探偵なら、俺は助手の小太郎、てポジションだし。二人の共通の友達だし。面白いし」
「最後のは聞き捨てならない気もしますが、いいでしょう。風間くんの手を借りることも認めましょう。鈍いあなた一人ではいつまで経っても話が進みませんわ」
なんだとぉ……こんにゃろ……
「あ、じゃあ早速だけど何かヒント頂戴よ。さすがにノーヒントは、ちょっと何をしていいか分からない」
僕が反論するより先に、小太郎がペラっとヒントを求めてしまう。
「コラ、勝手に敵にヒントを求めるな! それは負けを認めるようなものじゃないか」
「じゃあアマツくん手がかり掴んでるの? 何から取りかかるつもり?」
「…………」
小太郎の返しに僕は閉口した。ぐぐぐ……! それはコレから考えるんだ!
「ホラ! いるじゃんヒント」
「はぁ……仕方ないですわね。ヒント1――」
あ、コラ待て。と僕が制止する前に神原が口を開いてしまう。
「私が二人に出会ってから、コレまでの言動にヒントが隠されています」
「それは、僕達二人が聞いている言葉?」
小太郎がさらに追い打ちを掛ける。
こいつ……何気に頭いいな。一瞬で『言動』から『言葉』に絞らせたぞ……!
「そうです。さらに言うならば、私は、その……答え自体を、少し恥ずかしく思っています」
「……は?」
僕が口をあんぐりさせて神原を見ると、彼女は少し気まずそうに目を逸らした。
「だから自分から答えを口にするのは嫌だし、正直答えに辿りつけなくてもそれはそれでアリ、と思っています」
「くうぅ、女心だね! 口にするのは恥ずかしい、でも気づいて! ああ、でも気づかないで!」
「うるさいですわよ! じゃあ精々頑張りなさい! それじゃ、さようなら!」
小太郎がアホなことを言ったので、神原はぷんすかと怒って出て行ってしまった。
いや、コレはいつもの調子だな。もうすっかり普段通りの風景だ。
「いやあ、本当に可愛いなぁ、神原さん」
嬉しそうに頭をかく小太郎。こいつの趣味も良く分からん……が、今はそれはいい。
「ようし、やるぞ小太郎。あの女の鼻を明かしてやる!」
「お、神乃ヶ原先生、やる気満々! じゃあお腹も減ったし寄り道しながら作戦会議しようぜ!」
「うむ!」
挑戦、友達、寄り道、買い食い。
かつては考えもしなかったことが、こんなにも簡単に我が身に降りかかって、嬉しくて堪らない。
勿論、挑戦されたからには全力で応えるし、今言った言葉に嘘はない。
その一方で、結果は別にどちらでもいいなんて思っている自分にも気づいていた。
そして、こんな日々がいつまでも続けばいいなんて思っている自分にも、僕は気づいていたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます