フリーターになったし、ここがどこだかわからない。
@muto-san
1-1
酩酊していてよく覚えていないが、同居人が呼びに来たようだった。
なんのためらいもなくずかずかとドアを開けてくるし、そこに悪意がないから仕方がない。実家にプライバシーがないと言っていたからそういう家庭環境だったのだろう。本当は自分の感性が特殊で、同じ家に住んでいる人間は他人の部屋を堂々と開けてもいいものなのかもしれない。どちらにせよ、私は彼女にそれを注意する気はまったくない。自分が間違っているような気がして嫌になるから。
「風呂沸かそうと思うけど。何してんのー?」
まっしろの布団にくるまった私に向かって問いかける、声だけが聞こえる。めんどくせぇしこんな状態なんだから放っておいてくれよ、と疲れた自分が5秒ほどのラグをもって応答した。
「⋯⋯いいんじゃない。沸かしたら入る。ラジオ聴いてる。」
「そう〜。」
ドアが閉まる音がした。
明日の予定が逡巡して、今日本当に風呂に入らねばならぬかよく考えた。正直実家にいた頃は風呂に入らない日もよくあった。明日でいいや⋯⋯、そう思うほどただの先延ばしになることはわかっている。だから引っ越してきてからは夜に必ず入っている。いまのところは。
だから今日も入ることにした。もういいや、が明日になるように、風呂に入って今日の先延ばしをするのだ。白いふとんにくるまっていたら、そうやって考えている間に30分は経っていたらしかった。同居人が風呂を上がる音がした。時刻はすでに12時をまわっていた。
フリーターになったし、ここがどこだかわからない。 @muto-san
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。フリーターになったし、ここがどこだかわからない。の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます