後編
ただね、ここからが厄介なのよ。
下の子が、というなら女の子にだってそう思えばいいじゃない。
何で下の男の子ばかり、って。
で、疑問に思った私の友人のカントレ夫人が、親戚の訪問に行くついでに、近場にある別荘に寄ってみみたんですって。
そして今は住んでるそのエリナ嬢に直接聞いたんですよってよ。
するとエリナ嬢、こう言ったんですって。
「私ねえ、結婚も妊娠も出産もしたくないけど子供は欲しいの……」
「お兄様の下の男の子を見た時、これは絶対私とお兄様のために生まれた子だ、と思ったの」
ってうっとりとして言ったんですって。
そこで、
「え、まさか貴女、お兄さんのことを愛してらしたの?」
とカントレ夫人はぞっとしつつも、好奇心の方が強かったから、聞いたの。
「お兄様ほど素敵な方は居ないわ。
でもほら、お兄様だから結婚も妊娠もできないじゃない。
あ、妊娠はできるわ。たぶん。
私が頼めばきっとそうしてくれたわ。
でも私妊娠も出産も怖くてできないもの。
だからきっと、あの子はお義姉様が私のために産んでくれた、お兄様と私の子なんだと思ったの。
だから、ね、あの子のものはちゃんと新品を何でも揃えてあげるべきじゃない。
だって、私の最初の子なんですもの」
さすがにそれを聞いたカントレ夫人は相当引いたわよ。
いや、だって、論理がまるで破綻してるじゃない。
なのにそれが当然の様に言うあたりで、ああこのひとやばいな、とは思ったんですって。
でもやっはり好奇心は猫をも殺すのよねえ……
その彼女なりの論理とやらを聞きたくなっちゃったんですって。
ってことで、更に聞いてみたんですって。
「で、でもやっぱり子供は産んだひとの子供じゃなくって?」
「ううん違うの。だってね、あの子は私の子の生まれ変わりなのよ」
そこでまた目の玉何処? 状態よ。
「え、もしかして貴女、誰かと許されない恋を…… もしかして兄上との子供を身籠もって死産してしまったとか」
「嫌あねえ、そんなことある訳ないじゃない。それに私実際に妊娠も出産もするの嫌あよ」
ころころと笑って、カントレ夫人の肩を軽くぽんぽんと叩いたりするのね。
「だ、だけど」
「だから私の子の生まれ変わりなんですってば。
もしかしたら、遠い未来かもしれないし、私が生まれる前かもしれないけど、その時に私、お兄様との子供を宿して、亡くしているのよ。
だから今のお兄様の下の男の子は、そんな時間と空間を越えた、私の子供の生まれ変わりなのよ。
実際ほら、私にもよく似てるでしょう?」
エリナ嬢はそう言って、家族が勢揃いした写真を見せてきたんですって。
でも確かに彼女と似たところがあるとしても、一緒に写っているご両親とか、それこそお兄様だけでなく、お義姉様にも似ているところもあった訳。
さすがにそれをもの凄い笑みで語られると、カントレ夫人、確かにこれは別荘に捨て置かれる訳だな、と思ったみたい。
もう後は、さくさくと会話をそれなりに済ませて、用事があるからと帰った様よ。
ただねえ……
実際そこまで思い詰めるには、どっか一つくらい何か現実の原因があってもおかしくはないと思うのよね。
どうかしら、貴女、家庭教師時代、何か思い当たることは無いかしら?
きっと彼女にはそう見えているんだわ。彼女の中では。 江戸川ばた散歩 @sanpo-edo
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます