第10話 知らない天井

 ぱち、っと電源が付くように一瞬で目が覚めた。


 まず見えたのは知らない天井だった。


 磨き抜かれた木材を使われた天井で、地方にあるじいちゃんの家によく似ていた。


 代々続く農家で、その家もかなり立派だ。


 遊びに行った時には、縁側で横になるのが好きだった。


 ぼんやりした頭で思い出に浸っていると、不意にずきりと痛みが走る。


 痛みがトリガーとなって現状を思い出す。


 俺は森の中でリゼちゃんと出会って、元の世界に帰れる方法があることを知り喜びに打ち震えていた。


 だから気が付かなかったのだ。


 突如として女性が叫びながら、殺意マシマシの飛び蹴りを放ってきたことに。


 躱すこともできずに顔面で受けた俺は身体を木に打ち付けてようやく止まったが、そこで記憶も途切れている。


「あ、目が覚めた!」


 元気な声と共に赤髪の少女がずいっと俺を覗き込む。


「リゼちゃん、ここは……?」


 どうやらベットに寝かされていたらしい。


 首を動かして周りを見ると、他にもベットが二つある。


 遠くに見えた小屋の寝室だろうか。


「リゼのお家!待ってて、マ――おかあさん呼んでくるから!」


 何か言う間もなくリゼちゃんは駆け足で部屋を出ていった。


 子供のもつ元気さに圧倒されつつも、どうすることもできないので大人しく待っていると、少しして再び扉が開いた。


「あの、先ほどは大変失礼なことを……本当にごめんなさい」


 先程、全力の顔面キックをしてきた女性が申し訳なさそうに頭を下げる。


 暗い色合いの赤髪もそうだが、ちらりと見えた顔はリゼちゃんと似ていた。


 蹴りが飛んでくる寸前、うちの娘をと叫んでいたから恐らく母親なのだろう。


「いやいや、大丈夫ですよ!普段から結構鍛えてるんで!」


 実際に鈍い痛みは残っているが、気にするほどでもない。


 それに傍から見たら俺の様子は不審者に見えなくもなかった。


 娘を守るためとはいえ、いきなり飛び蹴りはやめた方がいいとは思うけど。


「でも、本気で蹴ってしまいましたし……何かお詫びをさせてください」


 更に深く頭を下げられてしまう。


 自分としてはそこまで頭を下げらることではないんだけど。


 そこで名案が思い付いた。


「それじゃ、元の世界に帰る方法を――ログアウトの方法を教えてください!」


 リゼちゃんはログアウト用の宿をやっていると言っていた。


 もしかしたらお金がかかるのかもしれないが俺には一銭もない。


 他人の気持ちに付け込むような形になるが、こうでも言わないと謝りっぱなしになりそうだ。


「木野さんは冒険者なんですよね?教わっていないのですか?」


「教わるも何も森の中で目覚めたので……普通は教わっているんすね」


「では私たちのようなアーティス、――異世界人のことも教えます。

 ……長くなるので、お茶でも飲みながら話しましょう」

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