第5話 足取りが軽い
天気はあいにくの曇り空で少し肌寒いが、今の俺はそんなことが気にならないくらいに浮かれていた。
あの龍ケ崎さんから会いたいと言われて喜ばない奴はいない。
やはりお店での何か言いたげな態度はそういうことなのではないだろうか。
つまりは告白的なことを。
「やっと俺にも春が来るのか……!」
あり得ないと思っていたがワンチャンある気がする。
期待に胸が躍り、足取りが軽い。
しかし、そうなると疑問がある。
なぜ龍ケ崎さんからの呼び出しが玲司を経由したのかだ。
「……ふむ」
名探偵が推理するかのように顎に手を当てながら可能性を考えてみる。
可能性①:直接連絡を取ることが恥ずかしかったから
連絡先を聞いて自分からメッセージを送ることさえ恥ずかしがるところはとても可愛らしいのでオーケーです。
これが真実だった場合、俺の心臓は止まるかもしれない。
自分のことが好いてくれるうえにそんな可愛いところを見せられて生きていられるはずがない!
可能性②:直接話をしたい
連絡先を人伝に聞くのではなく、直接聞いて関係を深めたい。そういう思惑があったのかもしれない。
それだったら嬉しいが、少しだけ冷静さを取り戻した頭脳が腑に落ちないと感じている。
そんなことを言ったら可能性①も希望的観測のバーゲンセールだから、あり得るかあり得ないかで言えばいい勝負だ。
可能性③:怪しい主教の勧誘
壺買わないかと持ち掛けられたらもちろん断る。
しかし、龍ケ崎さんに本気でお願いされたら購入を検討してしまうことは避けられないだろう。
心を強く持たなければ危ない。
可能性④:ドッキリ
告白されるかもしれないと思ってやってきた俺を笑いものにする。
その結果、俺は学校に行きにくくなり部屋に引きこもるようになって、外を出歩いている人たちを恨みがましい目つきで眺めることになる。
……自分で考えておいてなんだけどこれはあり得ない。
いくら玲司でもそこまでえげつないことはしない。
お互いに相手の不幸が蜜の味だと言いあっている仲だけど、線引きはちゃんとしている。
その辺は信用できる野郎だ。
「うーん……どれも決め手に欠けるなー」
④は絶対に無いとして、その他も確証がない。
やっぱり①か②のどちらかであって欲しいし、そうであったなら嬉しい。
あーでもない、こうでもないと考えて歩いていたらいつの間にか古びた外観の建物の前についていた。
おしゃれな外観とコーヒーや紅茶が旨いということでこの辺に住んでいる人の憩いの場となっている。
学校まで伸びている通りにある店なので放課後の時間帯は込み合うそうだ。
主に女子で。
男子高校生は質より、量を選ぶ。
どちらかと言えば〈すとれんじ〉に行く頻度の方が多い。
もちろん、あの店は質もいいのだから余計に人気なのだが。
入り口のガラス戸を開けようとして自分の顔が映った。
これは他者からの評価ではあるが、顔はそれなりに整っている方らしい。
ただ自分としてはあんまり好きではない。
くっせ毛で少しでも髪を伸ばすと、今の時期はいいが梅雨は悲惨なことになる。
顔もはっとするの程のイケメンではない。良くも悪くもないくらいだと思う。
めちゃくちゃ目立つわけでも友達が特別多いわけでもない俺にどうして龍ケ崎さんが連絡してきたのかと、疑問が再び膨らみ始めるが頭を振って追い出す。
どうせ今からその答えは聞けるのだから。
ここで考えても仕方ない。
意外と重たいガラスの扉を押し開く。
カラン、カランと扉についていたベルが軽やかな音を奏でた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます