第1話 決闘と奥義
三月十四日、深夜。
派手な装飾の施された大剣が目の前で振るわれる。
必殺の威力を秘めた刃が迫る中、冷静にタイミングを見極めてガード。
耳をつんざくような大音響が鳴り響き、火花を散らして剣が交錯した。
ガードには成功したが威力を殺しきれずに大きく後退させられる。
「……」
左下に表示された残りHPの数字は今ので僅かに減少した。
俺の防御力ではガードしきれなずにダメージを貰ってしまうことは分かっていた。
だからこそジャストガードでノーダメージかつノックバックを無効にしてカウンターを決める算段だったが、絶好のタイミングで失敗した。
ガードしても削られてしまった量を見ると、同じことをするとして後二回失敗したらHPはゼロになる。
いや、そもそも相手には俺の狙いがばれているかもしれない。
百戦以上やりあってお互いの癖や戦闘スタイルは熟知している。
「随分と消極的じゃんか。いつものあの手この手のスタイルはどうしたんだ」
野太くよく通る声で挑発される。
その言葉の裏にはカウンター狙いだってことは分かってる、と含まれているような気がしてならない。
「このHPで正面から突っ込むわけないだろ」
相手の残りHPの数値は表示されずに代わりに一本のバーで表される。
それは半分ほど減っているが防御力を加味すれば一番火力の出るコンボを決めても削り切れるかどうか怪しい。
「そうかよ……なら好きにさせてもらう!」
大剣使いは刀身を真っすぐに立てると全身から金色のライトエフェクトが溢れ出す。
発動までに時間が掛かるが強力な効果を持ったスキル、奥義と呼ばれるものだ。
数種類ある奥義の中でも、今使おうとしてるのは大剣使いならば一択と言われるほどに強力なものだ。
溜め時間中にカウンター効果があって、それに関しては防ぐ方法がほぼない。発動すれば軽装備だと一撃でHPを削り切られてしまうほどの斬撃が飛んでくる。
引くべきか攻めるべきか迷った。
今から全力で距離を取れば攻撃の範囲外へ逃げることはできるだろう。
しかし、あの奥義は発動後も各種ステータスがアップしているのでさらに厳しい戦いを強いられる。
攻めるとしてもカウンターが発動前にHPを削り切らないといけない。
カウンターは攻撃を受けてHPが減少すると発動するという性質がある。そのため一
撃で決めれば発動させずに倒すことができる。
問題はそんな火力を出すスキルが存在しない。クールタイムが終わっているスキル全てを使い最も威力の高い単発技を使っても今のHPから半分削れる程度だろう。
クリティカルでも出さない限りは削り切れない。
どちらを選択するか迷うだけでも俺が逆転する可能性は小さくなっていく。
「……やってやる!」
勢いよく地面を蹴った。
距離を取るためではなく詰めるため。
お互いの手の内は分かっている。逃げてジャストガードから反撃を狙ったとしてもすぐに目的を察して対策してくるだろう。
それならば大技が出る前に最高火力の一撃を加えるほうが逆転の目はある。
たった一つのクリティカルヒットが出るかという要素さえクリアできればHPは削り切れるのだから。
スキルを使って加速し距離を詰める。
走りながら攻撃スキルを発動させ、間合いに入ると同時に技の溜めが終了すた。
勢いよく打ち出された剣が相手へと迫り、あと少しでダメージ判定が発生する―――
「時間切れだ!」
無慈悲で勝利を確信した声が頭上から降り注ぎ、俺の剣が届くよりも早く奥義が発動する。
視認も回避も不可能な一撃が放たれ、俺のHPゲージはあっけなく空となった。
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