第8話 射的の秘密

 いざ屋台へ足を運んだ2人。

 麗華は目を輝かせていたがお腹が空いている千代は焼きそばや焼きとうもろこしの匂いにつられていた。

「もう!どこ見ているんですか!今日は

私だけを見てください!」

「あ…悪い。まだ昼飯食べてないからつい」

(…ん?今の発言って…)

 いくら鈍感な千代でも流石に気付いたらしい。

 これがいつの間にかデートに変わっていることに。

「あっ…あのさ、これって…」

「…それよりもお腹空いているのであれば早く行きましょう!」

 露骨にスルーしたが少なからず麗華も気付いてはいた。

(うう…デートのような雰囲気になってしまいましたがあの人に牽制するには十分なはず!)

 

 屋台には焼きそばや焼きとうもろこし以外にもかき氷や綿あめが置かれていた。

「あれなんて美味しそうですよ!」

「まっ…待ってくれ!そんなに慌てるなよ!」

 巫女服の麗華と千代が手をつなぎ、祭りではしゃぐ様子。

 それは端から見たらリア充としか思えない光景だ。

 しかし皮肉にも恋は盲目なもので。

 2人にとって周りの人達は気にならない存在だった。

「楽しい時間ですね。この時間がもっと続けば嬉しいのに…」

 麗華が呟くと近場の木陰からブツブツと声がした。

「おい?今何か聞こえなかったか?」

「気のせいでしょう、きっと」

(…おかしいな?確かに何か聞こえたんだが)

「そんなことよりもあれを見てください!」

 麗華が指差す方には射的の屋台があった。「射的かぁ~、懐かしいなぁ~」

 千代が物思いにふけている間に麗華はコルク銃を構えていた。

「見てて下さい!私が見事取って見せますから!」

 意気込みながら放った一発。

 そのコルク栓は明後日の方向へ飛んでいってしまった。

「千代君…!助けてください…!」

 何となくこうなることを察していた千代は屋台の叔父さんに300円を渡し、コルク銃を持った。

「それで…どれが欲しいんだ?」

「あっ…あそこの熊の…うわっ!」

 麗華の言葉を遮るように誰かが麗華を押し倒そうとした。

 間一髪で千代が麗華の腕を掴んだことで怪我はしなかったが一度遅ければ事故に繋がるかも知れなかった。

「おい!誰だよ!」

 押し倒そうとした者の肩を掴み、顔を強引にでも見た。

「あら~天動君。どうしてこんな所にいるのかな~?」

 者の正体はまさかの礼瀬だった。

「せ…先生!?どうしてこんな所に…」

「それはもちろん天動君を追ってに決まってるじゃないですか~」

(それはもちろんと言えることなのか?)

(それはもちろんと言えることなのでしょうか?)

 2人の頭に同じ疑問が浮かんだ。

「だ、ダメです!今日は私が千代君を満足させてあげるんですから!」

「ふ~ん、そんなこと言っちゃってもいいのかな?この前の写真、まだここにあるよ~」

 そう言い胸の谷間から千代と麗華が写った写真を取り出した。

「くっ…!卑怯ですよ!」

「世の中には~卑怯な人なんて沢山います

よ~」

 正論が故に言い返せなくなってしまった。

「さぁ~天動君~。私と一緒にお祭り行きましょう~」

(千代君!行かないでください!)

 麗華の強い思いを何となく千代は察することが出来た。

「いや行きませんよ。そもそも先生がプライベートに干渉するのは良くないと思います」

「だけど私は、恋愛小説みたいな恋を…!」

「だったら他の男…そうですね、例えば桐花なんて良いんじゃないですか?」

 千代の冷め切った態度と口調は礼瀬の心に深く響いた。

(ちょっと強く言いすぎたか…)

 そう思い咄嗟に謝ろうとしたが礼瀬は既に無言でその場を立ち去っていた。

「…ごめんな。俺のせいで厄介ごとになっちゃって」

「いいえ大丈夫ですよ。そもそも巻き込んでしまったのは私が責任ですし」

 どちらも謝ったせいか微妙な雰囲気が生まれた。

 すると麗華が何かを思い出したように手を合わせた。

「あっー!そう言えば千代君に渡す用のお吸いもの忘れてました!」

「…そう言えばそうだったな」

 千代も腹の空き具合をすっかりと忘れていた。

「まぁせっかくだしあそこの焼きそば奢るよ」

「い、いえでもそれでは千代君に迷惑ですし…」

「迷惑だったらこんなこと言わないだろ?」

 千代の一言に麗華は少し頭を悩ませた。

 そして結論を出した。

「…それじゃあお願いします」

 このあと千代は射的で景品を取り尽くし、麗華に熊のぬいぐるみをプレゼントした。

 麗華は「ありがとうございます!今日は楽しかったです!それでは!」と言い、また神社の仕事へと戻っていった。

 千代もその様子を見ながら家へと帰った。

 

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