第5話 手伝いの秘密
あの事件…礼瀬に脅されてから1週間が経過した。
礼瀬はそれ以上千代にアプローチをしてくることはなかったが、その代わり千代によく頼み事をするようになった。
「天動君、これらを職員室の私の机に置いといてくださ~い。」
昼休み、弁当を食べ終わり桐花としゃっべっていた千代に礼瀬は無理矢理頼み事をした。
そして当の本人はそそくさと教室を後にしてしまった。
その行動に対して千代は少々疑問を抱きながらも教卓の教材を抱えた。
「おいおい大丈夫か?その量を一人は流石に無理なんじゃねぇか?」
隣にいた桐花が心配そうに千代を気にかける。
それもそのはず。千代が抱えている教材の冊数は実に10冊を超えていた。
更にその1冊1冊がかなりぶ厚く千代の顔が2冊で埋まってしまうほどだった。
(そうだな…せっかくだし…)
「それじゃあ……」
千代が手伝ってほしいと言いかける前に間に入ってきた者がいた。
「私が天動さんを手伝うので大丈夫です」
麗華だった。
同時に麗華は千代が持っていた教材を5冊ほど抱えた。
「おやおや、どういった風の吹き回しかな?」
その行動に真っ先に反応したのは他でもない桐花だ。
「いつも他の人のことを気にかけない委員長が千代のことを気にかけるなんて」
「別に良いでしょう。ただ見ていて大変だと思ったからです」
「ふ~ん」
桐花は千代と麗華をニヤついた顔でこちらを見ていた。
「それじゃ任せようかな。俺がいたら迷惑そうだし」
そう言い桐花は自分の席に戻り、本を読み始めた。
ふと窓から暖かくもまた湿気のある風が教室内を包み込む。
それはとても幻想的であると同時に6月が近付いていることを示唆しているようでもあった。
6月、この学校では体育祭をやることになっており学校全体でも盛り上がりを見せている最中だ。
だが今は体育祭とは別の問題が出て来た。
(…なんてお礼を言えばいいか…)
中々人に手伝われることのない千代は麗華へのお礼の言葉を考えていた。
これが桐花ならば「サンキュー」で終わることだが、隣にいるのは麗華だ。
千代は少し頭を悩ませた後、ウトウトと眠そうにしていた麗華に言った。
「あっ…あのさ、手伝ってくれてありがとな」
千代の言葉で現実に戻った麗華は少し慌てふためいていた。
麗華も
(意外と可愛いところあるんだな…)
千代だけが見ることの出来る彼女の眠そうな顔。
その顔はまさしく心を許しあった者しか出来ないことだろう。
麗華の顔をまじまじと見つめる千代に気付くとあたふたした後、ようやくお礼の返答がきた。
「……別に!…天動さんのためではありませんから。これ以上彼女を暴れさせる訳にはいかないだけですから」
そう言い「早く行きますよ」と千代をせかした。
「わ、分かったからそんな急ぐなって…」
千代はそそくさと教室を去った麗華を風と共に追いかけた。
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