第4話 帰り道の秘密

 千代は息を荒げながら校舎の外を目指した。

 生徒達の間を駆け抜け、階段を駆け下り、ついに校舎出口までたどり着いた。

 後ろを振り返るとそこに礼瀬の姿はなかった。

「大丈夫ですか…天動さん?」

 急に話しかけられ腰を抜かした千代を麗華はクスクスと笑った。

「ま…まぁ…。それより斎藤さんこそどうしてここに?」

 息遣いを整え深呼吸し、麗華に質問した。

 すると麗華は予想外の答えを恥ずかしそうに返してきた。

「どうしてって…それはもちろん…天動さんを待っていたんです。」



 彼女と二人きり。

 この光景を果たして中学の頃の千代は想像出来ただろうか。

 内心緊張しながら帰り道を歩いている。

 千代も麗華も途中までは帰り道が同じと言う奇跡にも近いような運命。

「あの…天動さん。先程は何があったのですか?」

 優しい口調で麗華が千代に聞く。

 千代は苦い顔をした。

 聞かれることは分かっていたがどのように伝えるべきかを未だに悩んでいた。

(やっぱりちゃんと話すべきだよな…) 

「実はな……」



「…とまぁこんな感じだが…。」

 話し終えると麗華は唖然としながらも頭を抱えていた。

 数十秒後、千代に向けて質問をした。

「どうして宮本先生はわざわざそのような回りくどいことをしたのでしょうか?」

(…言われてみれば確かに。)

「普通であれば脅すだけで十分だと思うのですが…。そこで条件を持ち出してしまう天動さんも天動さんですけどね。」

 千代は納得しながらも片耳を塞いでいた。

「斎藤さんは宮本先生から何か言われたりはしなかったの?」

「私は…特に言われてはいませんね。強いて言えば少し変な目で見られていたようには感じましたが…。」

 麗華が歩きながらも思考を巡らせている。

 千代も少し変な目で見られていたように感じてはいたが、まさかこんなことにあるとは思ってもいなかった。

「あっ…そうです!」

 麗華が何かを思い出したように声を上げる。

「先程天動さんが言っていた銀髪の女子。

多分『エリス・シャーリーズ・メル』さんだと思いますよ。」

 エリス・シャーリーズ・メル?

 聞き慣れない名前に千代は思わず首をひねらせた。

「えっと…誰?そのエリスなんたらさんは?」

「エリス・シャーリーズ・メルさんですよ。

学校内ではメリーの愛称で親しまれていて

成績優秀・容姿端麗といいとこ取りの塊のような方で、この学校の男子は皆彼女が好きだと口をそろえるそうです。」

 麗華はそれが知っていて当然であるかのように口を回す。

 元から人付き合いが少ない千代は麗華と桐花、そして礼瀬以外の名前は覚えていなかった。

「まぁそんな人を知ってても俺は多分斎藤さんを選んでいたと思うけどな。」

 麗華の顔が一気に赤く染まる。

 千代の何気ないその一言は麗華の心を貫いたようだ。



 歩き始めて数分後、十字路にさしかかった。

「それでは私はこちらなので失礼させて頂きますね。」

「おう。それじゃまた明日な。」

 そう言い立ち去ろうとした千代の裾を急に麗華が引っ張ってきた。

「…えっとこれは一体?」

 すると麗華は少し体を揺さぶりながら千代の顔を見た。

「あの!明日から千代君と呼んでもいいですか?」

 今度は千代の心を麗華が貫いた。

「あ、ああ。全然構わないぜ。」

「ありがとうございます!そしたら私のことも麗華って呼んで下さい!」

 麗華から溢れるその笑顔を断ることは不可能だろう。

「あと、学校内では…苗字でお願いしますね。この関係はあくまでも秘密なので…。」

 千代は反射的に頷き、夕日に消えていく笑顔の眩しい麗華を見つめていた。

 

 

 

 

 

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