第3話 先生の秘密
授業終了を告げるチャイムが千代の体を起こす。
同時に教室内は一斉に騒がしくなった。
千代がおもむろに時計を見ると既に6時間目も終わっていた。
「お~い、どうしたんだよ。すっかり夢の世界に入っちゃってさ。」
寝ぼけている千代に眠そうな桐花が声をかけた。
「ああ悪い。ちょっと考え事しててな。」
「でも珍しいな。授業中に寝るなんてさ。お前が寝てる姿、初めて見たぜ。」
桐花はへへっと笑いながらからかってきた。
だが千代も麗華について悩んでいて寝るとは思ってもみなかった。
麗華が昼休み、千代に向けて放った一言「学校では…素は出せませんから…その、もう少しだけ…このままでいさせてもらえませんか?」
その言葉から察するに麗華自身は他人に弱みを見せたくはないのだろう。
だが麗華も学校で素が出せれば普通にクラスの女子と馴染めるはずではないか。
その考えが千代の頭の中を右往左往し、いつの間にか寝ていたようだ。
「は~い。帰りのSHR始めるから皆席ついてね~。」
ドアが開くと同時に千代達の担任である
それと同時に騒がしかった教室は静寂へと包み込まれる。
「それじゃ始めるわね~。とりあえずこれと言った連絡事項はないから皆安全に帰るのよ~。それと天動君は後で生徒指導室まで来てね~。」
教室の目線が1点に集まる。
千代は心当たりがないか頭を悩ませた。
だが思い当たる節は1つもなかった。
その間にSHRが終わり、それぞれ教室を後にする。
その中に駆け足で帰ろうとする麗華の姿があった。
鞄を背負い追いかけようとしたが、その行く手を誰かが遮った。礼瀬だった。
「あら~?そんなに急いでどうしたんですか~?」
普段優しい礼瀬が見せることのない表情を見せる。
いつもと変わらない笑顔のように思えてしまうが千代には違うことがはっきりと分かった。
笑顔の裏側から伝わる殺気。
「いや…生徒指導室へ向かおうと思っていた所です。」
「そうですか、それなら早く向かいましょうか~。」
蛇ににらまれた蛙とはまさにこの事なのだろう。
「さてどうして呼ばれたか分かるかな?」
沈黙を貫く礼瀬の言葉で空気が変わった。
「もしかして…今日の授業中に寝ていたからですか?」
千代が思いつく答えはこれしかなかった。
「う~ん授業中に寝るのは良くないよね。
まあ私もしたことあるからお相子だけどね~。」
まるでその事を初めて聞いたかのような反応を見せた。
「だったら…分かりません。」
千代がそう言うと礼瀬は胸ポケットから1枚の写真を取り出した。
「これを見てもまだ分からないかな?」
その写真には千代と麗華が話している様子が収められていた。
「この学校でバイト禁止なのは知ってるよね?」
追い打ちをかけるように礼瀬が質問をしてくる。
「……はい、もちろんです。」
突然のことに千代の言葉が詰まる。
「それなら私の言いたいことも分かるよね?」
まるで千代を脅すかのように声色を変えてきた。
だが押されている千代も反撃の質問を思いついた。
「先生は…どうしてその写真を撮ったのですか?普通に盗撮だと思うのですが…。」
「盗撮とは心外だね~。私はただ新聞部の写真を撮りにいったついでに面白いものを見つけたからネタにしようと思っただけだよ~」
礼瀬は新聞部の顧問でもあり、自分からネタを探すことがこの学校では有名になっている。
神出鬼没のレポーターと言う二つ名がついたのも納得がいってしまう。
「それとも…新聞部が今までやってきたことを根本から否定するつもりかな~?」
今の礼瀬の言葉で千代の思いが確信へと変わった。
礼瀬が本当に脅しにきていることに。
「…何が条件ですか…?」
「条件、条件かぁ~。」
「はい、俺は先生が盗撮したことを誰にも言いません。なので先生はその写真を今すぐ処分して下さい。」
今の千代には条件を提示することで危機を回避することしか頭になかった。
「でもそれって不公平だと思うんですよ~。」
やはり…か。
「…だったら何が望みですか?」
「そうですねぇ~。」
一時考えた後答えを出した。
「それなら私の……
言葉から
それは紛れもなく千代の体を震え上がらせた。
「えっと…そう言うのを教員が言って良いもの何ですか…?」
千代の必死な質問に礼瀬は喜んでいた。
「もちろんですよ~。逆に駄目な理由を教えてくださいよ~。」
その勢いはとどまることを知らず、礼瀬は一歩ずつ千代に近付いた。
「さぁ~私以外を愛せないようにしてあげますよ~。そして高校卒業には私のものに~。」
もはや礼瀬のS気質はヤンデレ方向へと次第に変わっていった。
そして確実に千代をしとめんとばかりに近付く。
千代の背中からドン!と音がなる。
ついに壁まで追い詰められてしまった。
「せ…先生!落ち着いて下さい!」
「私はぁ~いつでも~落ち着いてますよ~。」
千代の体に礼瀬の手がかかる。
諦めかけていたその時!扉が開いた。
「あの~すみません宮本先生…ってあれ?」
そこには白髪の美少女がいた。
「あっ…その…失礼しました!」
彼女は顔を赤らめた後、すぐさま走り去ってしまった。
千代もそのチャンスをつかむように走り去った。
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