第2話 彼女の秘密
次の日、千代が教室に向かうとそこには席に座り静かに読書をする麗華だけがいた。
昨日の1件、千代はその場の勢いで承諾してしまった。
麗華は「学校内では友達同士の関係でいさせてほしい」とも言っていたが、千代はそれをも勢いで承諾してしまった。
だからこそ千代には申し訳なさがあった。
千代が頭を悩ませていると、麗華がこちらを見つめてきた。
そして席を立つと千代に近付いてきた。
だが麗華は近付いたきり何も言わなかった。
窓から吹き付ける5月の暖かい薫風が沈黙の時間を長く感じさせる。
ついに麗華は深呼吸をし、千代に一言。
「貴方、ネクタイが曲がっていますよ。それに第1ボタンも開けてだらしないですよ。」
その口調に千代は驚きを隠せず腰を抜かしてしまった。
昨日の優しい口調は果たしてどこに消えたのだろうか。
元々麗華がこの口調なのは知っていたが昨日の1面を思い出すと驚かざるを得ない。
「あっ…ああ、ありがとな。」
何とか驚きを隠しつつ直すと麗華はすぐさま席へと戻っていってしまった。
首をかしげながら千代は自分の席に座ると机の中からよくありがちな手紙が入っていた。
周りを気にしつつそっと手紙を開けるとそこには綺麗な字で書かれた麗華があった。
内容は「昼休みに屋上へ来て欲しい」とのことだった。
そして手紙が入っていた封筒の裏にはしっかりと『斎藤麗華』と書かれていた。
昨日のことについてなのだろうが、正直あの麗華と話すのに千代はいささか不安が残っていた。
だが千代は「きっと昼休みの時は大丈夫だろう」と言う一途な望みを胸に秘め、そっと手紙を鞄の中にしまった。
特に変わったことはなく、いつも通りに昼休みがきた。
クラスの人達はそれぞれ友達同士で会話して弁当や学食を食べる中、麗華は弁当を持ちどこかへと行っていた。
千代も後を追うように弁当を持ち、屋上へ行こうとすると不意に肩に衝撃が走った。
後ろを振り向くとそこには千代の友達である
「あれれ~?弁当片手にどこに行くのかな?もしかして彼女でも出来たのか~?」
桐花は次第に近付いてくる。
「いや…違うよ。ただ中学の友達と一緒に屋上で食べようって話を昨日していてだな…」
実際、この学校に千代の中学の友達はいない。いるはずもない。
「ふ~ん。まあ何でもいいや。ただちょっと気になっただけだからさ。」
そう言い残し桐花は自分の席へと戻っていった。
千代はすぐさま用を思い出し階段を駆け抜けた。
「あら、遅かったですね。西川さんと話されていたのですか?それとも単に忘れていただけですか?」
屋上へと駆け込んだ千代の目に映ったのはいつもの麗華だった。
「いや~悪かった。ちょっと桐花に呼び止められてだな…。」
「はあ…そうですか。」
千代の答えに麗華は冷静を保っていた。
千代が麗華の隣に座り弁当を取り出すと、不意に麗華の手が千代の手に被さっていた。
驚きを隠せない千代が首をあたふたさせていると、麗華が千代にとどめの一言を放った。
「学校では…素は出せませんから…その、もう少しだけ…このままでいさせてもらえませんか?」
その後お昼休みが終わるまで千代は一口も弁当に手がつけられなかった。
そして言いたいことも言えず仕舞いとなってしまった。
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