プライス・レス~特別編~

風見☆渚

その日だけの関係

○自分の出来る事を仕事にして働く女


今日も、知らない男に抱かれてる。

これが、私のお仕事。

別に、SEXが好きなわけでもないし、気持ちいいとか感じたことない。

自分でも、なんでこんな仕事してるのかわからない。

ただ、給料が良いから。ただ、それだけ。

客は勝手に盛り上がって、勝手に尽きる。

今日もそんな身勝手で、お金だけの関係の相手をしてる。

時計を見たら、もう3時。

そろそろ上がりの時間か。やっと終われる。

そう思ってたのに、急に指名が入った。

別に、私は人気があるわけじゃない。

だから、指名が入るのは本当に珍しい。

もう疲れた。帰りたい。けど、お金も欲しい。

本当はイヤだったけど、これは仕事。

そう割り切って、車に乗る。

指定のホテルに到着。

えーっと、308、308はっと。ここか。

部屋の扉が開けばいつもの営業スマイル。それとお決まりの普段より少し高めの声で客に挨拶。私は、この仕事中の自分の声が大嫌い。

媚びてへつらって、建前だけの高い声。

でも、客にはこの方がウケが良い。

しょうがない。これは仕事。

最後の相手は・・・なんか冴えない男。特徴もない、どこにでもいる平凡な男。

歳は、40前後ってとこかな。

こんな時間に呼びつけるくらいだから、何かされるんだろ。

どんだけ溜まってるんだか。

変態プレイとかマジ勘弁。

はぁー、イヤだ。

ギリギリ夜中の最終に指名で呼び出す男にロクな奴はいない。

どうせ今日もそんななんだろう。

でも、そういえばオプションとか言われてなかったけど。

隠れの秘密オプションでも嘆願してくるの?

そういうの面倒くさいから。

てか、コイツ何もしてこないし。

もういい。とりあえずお風呂。

その後、ベッドに座る。

え?何?

何もしないの?

お風呂でも入ればって言ったら、軽い苦笑いでやっと動いた。

でも、結局お風呂から出てベッドに座る。

その後も手を出してくるでもない。

何がしたいの?!

こっちはもう帰りたいんだけど。

イライラして、タバコに火を付けた。

その男がやっと口を開いたと思ったら、死にたいって・・・・・・

いやいやいや、ちょっと待って。重い。重すぎる。

今日、彼女にフラれたって。

初対面の私には、全然関係ないし。

はぁ~・・・もういいや。一発出せば気も変わるでしょ。

その為に呼んだんでしょ。

あー面倒くさ。コレは同情だから。

生で入れさせてやるから、膣で出さないでよ。

って、ダメじゃん。立ってないじゃん。何でこんな時間に呼んだの?!

コイツ、マジ使えない。

だからフラれたんでしょ。

はい、終わり。

私は、いつもと同じ仕事しただけ。

お風呂入って世間話。それだけで、気づけばもう35分。

あと10分しかないけど。

どうすんのコレ。

あと5分。

しょうがない。最後に、キスだけしてあげる。

そっと唇が触れて、そいつの手が私の腰に回った。

それだけ。それだけなのに・・・

私のカラダを見ても立たない。使えない。そんな最低男なのに。

キスはなんか、優しかった。

今まで自分勝手な男ばっかで、何も感じなかったのに・・・

なんだろう。なんでだろう。

こいつのキスは、なんか優しかった。

きっと、優しすぎたんだ。コイツは。


――ピピピピッ


時間だ。遅くなると迎えの人にグチグチ言われる。

しょうがない。

もう終わりだし。チェックしたら、後で飲みに付き合ってやるよ。

彼女にフラれたんだろ?

あと数時間で朝だ。

その間だけ、一緒にいてやるよ。

なんか、拾った子犬みたいに放っておけないし。




○平凡な男の話


今日、10年付き合った彼女にフラれた。

なんで?って聞いても理由は特にないって。

ただ、優しすぎるからって。

俺は彼女を大事してきた。だから、プロポーズもした。

でも、彼女の答えはNOだった。

正直、かなりショックだった。

何時間呆然としてただろう。

気が付けば12時をとっくに過ぎている。

手に持ってた温かいはずの缶コーヒーは冷め切って、一口飲んだけど不味かった。

何も考えられなかった。

何でフラれたんだろ。

これは、彼女に対する小さな反逆だ。

俺は近くのホテルに入り、デリヘルを指名で呼んだ。

その子の名前は、彼女と同じ名前だった。

ただそれだけ。

もう3時を回っている。

ホテルでデリヘル呼ぶとか、人生で初めてだ。

指名でも、こんな時間に本当に来てくれるだろうか。

何に心配しているのか、色々初めての事だから、心臓の音が部屋中に響いている気がした。

部屋をノックする音が聞こえる。

ドアを開けると、そこにはキレイな女性が笑顔で立っている。

こんな人がなんでこんな仕事しているんだろう。

そんな疑問は失礼なのだろう。

ベッドに座り、無言の時間が過ぎる。

女性の口調に、イラつきを感じる。

言われるまま、一先ず風呂に行ってもらった。

俺も言われるままその後、風呂に入る。

お互いに風呂から出てバスローブのままベッド脇に座っている。

女性がタバコに火を付けた。

気まずい。何か話題を。

そう思って口から出たのは、今日の事だった。

暗い話題で、さらに女性の表情が引きつっているように見える。

いや、夜も遅すぎる時間に、しかもデリヘル。

ここは世間話じゃない。やることは一つ。

でも、本当はそんな気分じゃない。

今日フラれた。

とにかく、やることはやっておく。それがきっと礼儀なのだろう。

女性の方から優しくリードしてくれたが、俺のナニは何も反応なし。

持ち主と一緒だ。萎えている。

すみません。こんな息子と持ち主で。

気が付けば規定時間まであと10分。


――ピピピピッ


もうそろそろ時間か。

最後に、思い出作り。

そんな軽い気持ちで、お互いの唇同士が触れた。

ただ、それだけ。

彼女と同じ名前。でも、その場限りのカラダだけの見知らぬ女性。

そんな彼女の唇は、何となく冷たく感じた。

気のせいかも知れない。

でも、何かしてあげたい。

おこがましいかも知れないけど、そう思った。

去り際、彼女から飲まないかと誘われた。

迷惑だからと断っても、彼女は強引に連絡先を渡してくる。

きっと、この人も優しい人なんだ。

飲みは、俺が出します。

今日のお礼に、そのくらいしか出来ないから。

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プライス・レス~特別編~ 風見☆渚 @kazami_nagisa

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