6.逮捕
「吃驚したのお。殺人事件やったんやのぉ。三田主任が犯人やったやのお」
龍治は、弘が、誰かに襲われたと、聞いていた。
そこで、道場で知り合った警察官に相談していた。
何かあったら電話するように云われていた。
今日も龍治は、寺井社長に指示されて、弘を見張っていた。
警察は、三田を監視していたそうだ。
あの後、三田が自供したそうだ。
アックス丸肥店で、三田の休憩時間と、尾崎さんの休憩時間が、重なることはよくあった。
綺麗な人だったので、印象深く、名前くらいは、知っていた。
冗談を云える程度に、親しくなっていた。
ある日、尾崎さんが、休憩室に居た。
一人だった。
二人とも、翌日が休みだと分かって、冗談半分で、三田が居酒屋へ誘った。
まさかと思ったが、誘いに応じた。
スーパーに勤めていると、土曜、日曜日は、よほどの事が無い限り、まず、休めない。
以来、二ヶ月に一度くらいの割合で、一緒に飲みに行っていた。
話題としては、割引商品だけを買って帰るお客さんの事や、店員の誰それは、レジの応援を知らせるチャイムが鳴っても、駆け付けない。
とか、店舗での出来事を喋るだけだった。
それ以上の事は無かった。
三田は、尾崎さんと交際していると思っていた。
二年、同じ店舗に勤めていた。
一年くらい、そんな関係?を続けていた。
ところが、尾崎さんは、突然、テナントのドラッグ店を辞めていた。
三田に何も云わず、尾崎さんは退職した。
その後、三田はよく通っていた居酒屋でアルバイトをしている女性と結婚した。
結婚当初から、夫婦喧嘩が絶えなかった。
理由は、大抵、三田の収入に関する事だ。
独りの時は、生活費に困ったことがなかった。
毎月、生活費が足りないという事だ。
三田の奥さんが、銀行の通帳と印鑑、それにキャッシュカードを全部握っていた。
「今月はいくら足りない。月末までに何とかしろ」と云う。「来月の給料日まで持たない。小遣をもう少し削る」と云う。
三田の小遣は月二万円になっていた。
毎日、煙草と弁当を買うと、通勤のためのガソリン代が足りなくなる。
初めの頃は、煙草の本数を抑えたり、昼食を抜いたりと切詰めていた。
それでも足りないといわれるようになって、カードローンを利用するようになった。
ただ、結局は、返済に小遣を充てることになる。
もっと足りなくなってしまった。
カードローンの残高は二百万円を超えてしまった。
三田と妻との収入の差は、ほぼ無い。
それなのに家事を一切しないのは不公平だと云う。
それで、離婚した。
子供はいなかったので、慰謝料や養育費は要らなかった。
二百万円のカードローンだけが残った。
ある日、尾崎さんが、男と歩いているのを見た。
男は片丘クリニックへ入って行った。
尾崎さんは、片丘クリニックを通り過ぎて、石木バイパス調剤薬局へ入って行った。
何度かマンションの近くで、尾崎さんを待ち伏せた。
同じように、男とマンションへ帰って来る。
そして、男は、片丘クリニックへ入り、尾崎さんは調剤薬局へ入る。
尾崎さんと一緒に帰って来る男は、片丘クリニックの院長だと分かった。
片丘クリニックの院長の奥さんは、市会議員だ。
ある日、偶然を装ってマンションの前で待ち伏せした。
「ああ、吃驚した。元気なん?」尾崎さんはなんの屈託もなく云った。
「うん。あんまり元気無いんや。ここで薬剤師、しとるをか?」
それから、何度も尾崎さんのマンションを訪ねるようになった。
尾崎さんの自宅マンションを訪ねたのは、お金を借りるためだった。
何度か断られた。
片丘クリニックの院長と不倫している事を言い触らす、と云って脅した。
尾崎さんは、誤解だと云うが、何故か弁解をしない。
アックスは、二十四時間営業だ。
片丘クリニックの看護師も夜中に買物へ行く。
何度か、看護師たちに聞こえるように、店舗で噂話を流した。
直接、尾崎さんに、もっと噂が広まると脅した。
それで、お金を用立ててもらう事が出来た。
それが、三年前だ。
一度流れた噂は、なかなか打ち消せなかった。
尾崎さんと同じ、立花マンションに住んでいた松浦さんも、その噂を聞いた。
しかし、松浦さんは、尾崎さんと三田が、付き合っていると思っていた。
何度か、一緒に居るところを居酒屋で目撃したことがある。
しかも、また、尾崎さんの部屋を度々訪ねている。
アックス石木店の投書カードを投函したのは松浦さんだった。
更に、石木店で片丘クリニックの看護師を捉まえて噂を流した。
しかし、松浦さんに好奇心以外の思惑は無かった。
後日、橋本係長が、アルバイトに勤めだした松浦さんから聞いた。
その日の休憩時間に、尾崎さんとマンションの部屋で会うことになっていた。
お金を二十万円借りた。
その時、尾崎さんが、貸したお金は、返さなくて良いから、二度と訪ねて来ないでと云った。
その一言で、手が出てしまった。
ベランダで尾崎さんを後ろから抱きかかえて持ち上げると、そのまま突き落していた。
「これで一件落着やなあ。そんじゃあ、チラシ配って来るわ。それで、上がるわな」
弘は、得意そうに云った。
「ちょっと待てぇ。終わっとらんやろ」
寺井社長は、ご機嫌斜めだ。
「えっ?」弘には、思い当たる事が無い。
「相田浩之さんの居所や。だれが殺人犯、探せ、ちゅうたんなあ?ゆ、く、え、ふ、め、いの相田さんを探さなあかんやろ」
寺井社長が怒鳴った。
「ああっ。そうや」そうだ。相田を探していたのだ。
三田は、尾崎さんを突き落して、ベランダから下を覗いた。その時、誰かが駐車場からこちらを見ていた。三田は驚いた。相田だ。
見られたと思った。
ところが、翌日、店舗に出勤してきた相田は、何も云わない。
気付いていない。
しかし、目の前に相田が居ることを不安に思った。
相田が、売場から商品を持ち出しているという噂を店内に流そうとした。
それで、近藤にその事を云った。
近藤は、口が軽いから、すぐ、噂は広まると思っていた。
あの日と同じ駐車場を見張っていると相田がやって来た。
三田は、相田に云った。
「悪い噂があるから、もう店に来るな。同じように有己輝Sにも流れるぞ。そしたらこの町では居られんようになるで。どっかへ行ってしまえ」
相田は、すぐ居なくなった。
何処へ行ったかは分からいと云う事が始まりだった。ん
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