7.引継
「おい。アッきゃん」
宮崎課長が、弘を呼んでいる。
「なんや?」弘は、鬱陶しいなと思って応えた。
配送の商品を折れコンに詰め込んで、伝票を確認している。
今日は、輸液の配送が無い。
だから、折り畳み台車は、必要ない。
「こら。早よう、来い」宮崎課長が、急かしている。
弘は、宮崎課長の半径約二メートル以内に、近づかない。
宮崎課長の横に、女性が立っている。二十代くらいだ。
女性は、会社が支給する作業ユニフォームを着ている。
顔を見たことがないから、新人だろう。アルバイトか、パートだろう。
「アッきゃん。どしたん。もっと、こっち来いや」
宮崎課長が、もっと近う寄れ、と云う。
その手には、乗らない。昨夜ニンニクを食べているらしい。
出勤して、直ぐに、バイト仲間が教えてくれた。
それでなくても、昔は、「ザッキー愛の拳骨」が、何時、炸裂するか、分からなかった。
今なら、始末書を書いて、懲戒処分ものだ。もっというと警察沙汰になる。
総合的に判断して、二メートル以内は危険だ。
「こいつが、秋山や。で、こちらが、松浦さんや」
宮崎課長が、女性を紹介した。
「あっ!松浦さん」弘は驚いた。「ああ。秋山さん」松浦さんも驚いている。
「なんや。知り合いか。まあ。ええわ。取り敢えず、引継しといてくれ」
宮崎課長は、特に驚いていない。
最近では、ダブルワークをしている人も多いそうだ。
同じコンビニで、アルバイト店員として夜勤し、昼間は、有己輝Sの物流センターでアルバイトとして勤務している人が、何人かいる。
松浦さんは、アックスで、夜勤をしているアルバイト店員だ。
近藤が、いろんな情報を知っていると、教えてくれたのが、松浦さんだ。
松浦さんは、確か、午前七時から弁当屋で、もう一つアルバイトをしていた筈だ。
弘は、配送車両の助手席に乗り込んだ。
松浦さんに、配送ルートと、ハンディ端末の操作方法を教えた。
そして、一番肝心な、サボり方を伝授した。
松浦さんが、運転して六軒目の片丘クリニックへ向かった。
「私、以前、ここのマンションに住んでいたんです。自殺があったの、知ってますか?亡くなった尾崎さんとは、親しかったんです。後で聞いて吃驚したんです。近藤さん。アックスの近藤さんは、以前、尾崎さんと、付き合っていたんですよ」
松浦さんが、興奮したように云った。
しかも、近藤と尾崎さんが付き合っていたという話は、相田から聞いたそうだ。
「えっ?」弘は吃驚した。
なんだか、違和感を覚えた。そんな風には、思えない。
それにしても、近藤だけでは無かった。
松浦さんも相田も、結構、噂話を誰にでも喋るのだ。
弘は、相田の替わりのアルバイトが、見付かるまでという約束で、配送のアルバイトをしている。
有己輝Sで、配送のアルバイトを始めて、一ヶ月だった。
気付くと、何の違和感もなく、ごく普通に配達業務をこなしていた。
これで、お役御免だ。
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