4.防犯カメラ

もう少しで終わりそうだったが、午前二時、退勤時刻になっていた。

「失礼します」声を掛けて、弘は、事務所へ入った。


三田主任と警察官が二人。

「お疲れさまです」弘は、主任に挨拶して、退勤打刻をした。

充電器にトランシーバーを置いた。


「四ケース残りました。台車に載せたままです」弘は三田主任に報告する。

「ああ、四箱やな。分かりました」

主任が、防犯ビデオへ向いたまま、残を確認した。


「上がります。お先に失礼いたします」退勤を告げる。

主任が、振り向いて「お疲れさまでした」と返した。

またビデオの方を向いた。


「何かあったんですか?」弘が尋ねると「ああ、交通事故や」主任が答えた。

「今日ですか?」弘もビデオを眺めていると主任が答えた。「いや。水曜、九日や」

画面の上部、右側から車両のライトが左方向に移動して、左上部で停まった。


弘は気付いた。

警察官は、何回も同じ場面を見ている。

「事故は、この時やなあ。やっぱり」また、同じところを再生している。

警察官が確認している場所ではない。

画面手前に映っているのは、相田のように見える。


二度目の再生、やはり相田だ。相田が映っている。

これは先週の水曜日。失踪する二日前だ。

女性が、相田の前に立っている。


相田とすれ違いざまに、横から呼び止めて、何か云っている。

挨拶を交わしただけである訳がない。すぐに左の方へ向かった。

顔が見えた。


「あっ!」弘は思わず声を上げた。

三人が一斉に弘の方を向いた。ちょっと声が大きかった。

「どうかしたんですか?」警察官が不審そうに弘を見た。


「いや。ごめんなさい」

警察官は、なんとなく疑っているようだったが、それ以上何も云わなかった。

あれは、市議会議員の片丘さんだ。

弘の住んでいる石木町自治地区と繋がりのある地元の市議会議員だ。


石木町は、田圃が広がっていた。

田圃が次々に開発されて住宅地になっている。


土地開発が進み住宅地になると次々に自治会ができ、石木町の自治地区に組み入れられる。

弘は、「ニコニコタウン石木」という自治会に入っている。


自治会の役員をしている時に、片丘市議と面会したことがあった。

もちろん自治会に挨拶に来られたこともある。


石木町自治地区の夏祭りや自治会対向運動会。夏祭りは自治会の屋台へ挨拶回りをしていた。

運動会の時は、ステージに立って挨拶した後、来賓席に着いていた。

確か、玉入れに参加したりしていた。

弘の実家のある田舎では、市会議員が行事に参加するようなことが、まず無かった。

この町に住んで、身近な市会議員というのは印象的だった。


しかし、だからと云って、いくらなんでも、夜中に女性の市議会議員が一人で、スーパーで、というのは、如何にも不自然だ。


へえー、驚いた。相田は片丘市議と知り合いなんや。

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