7.業務ルール
「アッきゃん。それ、忘れんなよ」
配送課長をしている宮崎が、大声で云った。
「えっ?どれ?ええっと。これ?多くない?」弘は、残りの荷物を見てうんざりした。
今日、配送担当者が一人、欠勤したのだった。
欠勤者があった場合、他の配送担当者が、欠勤者の担当地区の得意先を分担して配送することになっている。
弘に振り分けられたのは、広瀬病院で、担当地区より、少し市内寄りの得意先だった。
広瀬病院の配送商品、輸液をニ十ケース積み残していた。
「頼むで。忘れてったら、また、儂が走らな、いかんしのぉ」
弘が、有己輝Sでバイトを始めて、今日で四日目になるが、なにも情報は無い。
物流センターに戻ると、パソコンに向かって日報を入力していた。
「アッきゃん。今日、サボっとったやろ。分かるんやで」
宮崎課長は、弘の肩越しにパソコンを覗き込んで云った。
「サボっとらんわ。誠心誠意、真心込めて、お届けしてますよ」弘は、画面に向かったまま否定した。
「ほんだら、この時間、何をしとったんな?」
宮崎課長が、弘を追及する。
「どこぉ?」弘は、ドキドキしながら、画面を見た。
たまに、こっそりサボって、コンビニでアイスクリームを買って食べることがある。
「ちょっと待てよ。ここや。ここ」宮崎課長が云った。でも今日はサボってはいない。
「ここ、時間が掛かり過ぎやろ。一品目やのに、なんで、こなん時間かかっとんや」
パソコンの画面に、指を押し付けて、宮崎課長が詰る。
一軒ごとに配達を終えると、次に配達する得意先へ出発する前に、その得意先の納品伝票に印刷されたバーコードの、どれか一枚をハンディ端末でスキャンして送信する。
そのデータは、物流センターのサーバーで受信する。
宮崎課長が指摘したのは、今日、欠勤した担当者の配送先、広瀬病院へ向かう前の時間帯のことだった。
「これ広瀬病院やなあ。輸液ニ十本、三階の薬品庫へ運んだんや」
物流センターに、半年くらい勤めれば、得意先ごとの場所で、物量に要する時間が分かる。
どれくらい時間が掛かるか、当たり前に分かるようになる。
「ああ、あれか。そうか。よっしゃ。分かった」宮崎課長は、何事も無かったように云った。
出発前の会話を思い出したようだ。
弘は、無罪判決を勝ち取った。
弘は、入力を終えると日報を印刷して、担当配送ファイルに綴った。
そう、業務ルールで決まっている。
一体、何のために、イントラネットを導入しているのか分からない。
パソコンに登録しておけば、何時でも情報は共有できる。
わざわざ、印刷して保管する管理方法に、何の意義があるのか疑問を持った。
「あっ!そうや」弘は、思わず、大きな声を出していた。
宮崎課長に睨まれた。
相田が、失踪する直前の配送日報を見れば、何か掴めるかもしれない。
「ああっ!」また、弘は、大きな声を出してしまった。
千景の迎えの時間だ。
また、宮崎課長に睨まれた。
慌てた。
弘は、午後五時ニ十分に、有己輝Sを出て、保育園へ千景を迎えに行った。
危なかった。保育園に着いたのは十分前だった。
六時から延長保育になる。延長保育になると、その分、延長保育料がかかる。
二人で帰宅すると、景子が迎えてくれた。
「おかえり。チカちゃん」景子が、千景に向かって云うと「おかあさん。ただいま」千景が、景子に答えた。
「お帰り。おかあさん」弘が、景子に云うと、「ただいま。おとうさん」景子と千景が、声を揃えて応えた。
宮崎課長に頼んで、休みの日に、相田の配送日報を見せてもらおう。
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