6.Wワーク
弘は、もうひとつ、スーパー・アックスで、夜十時から翌日午前三時まで、バイトを始めた。
アックスは、年中、パート、アルバイトの募集をしている。
電話で、バイト希望の旨を伝えると、即座に時間と用意するものを指示された。
指定された時間に、履歴書を持参して面接をした。
何だか忙しそうだ。
バイトの時間帯は、弘の希望したとおり、午後十時から翌日、午前三時までで採用された。
その日から、店に入るように云われたが、昨夜からの勤務にした。
久しぶりの力仕事だと覚悟していた。
しかし、夜間責任者の三田主任が、初期面接という店舗ルールの説明とバックヤードの案内から始まった。
午前零時半過ぎに、十分間の休憩に三田主任と入った。
「おはようございます」男が三田主任に挨拶した。
喫煙室に入ると、店の制服ジャンパーを着た、五十歳くらいの男が、カップコーヒーを飲んでいた。
「おはようございます。近藤さん。こちら、今日から一緒に作業に入る秋山さんです」
三田主任が、近藤さんに弘を紹介した。
「秋山です。よろしくお願いします」弘が挨拶した。
「近藤です。よろしくお願いします」
近藤さんは、無表情で挨拶を返した。
「近藤さんは、この店舗が、出来た時から、来てもらってるベテランや。分らない事があったら、相談してくださいね」
三田主任が、近藤さんの紹介に付け加えた。
喫煙室から出ると、バックヤードの食品在庫置き場へ連れられて行った。
三田主任が、台車に未開封の大きさの異なる段ボール箱を六個乗せた。
「この商品を売場の棚を探して、棚に並べてください。先入先出に注意してくださいよ」
三田主任は、弘にそう云うと喫煙室へ戻って行った。
弘は、午前一時から食品の品出し作業をした。
有名メーカのインスタントラーメンの絵が描いてある段ボール箱を開けた。
五袋入りのインスタントラーメンを置いてある棚を探すだけで随分と時間が掛かった。
やっと商品棚を見付けて、今度は、棚に出ている商品を台車に移す。
段ボール箱の新しい商品を奥に並べて、台車に置いた商品を前列に並べた。
一個の商品を出すのにニ十分要している。
なるほど。一時間で三箱。二時間で六箱。台車に置かれたのが六箱。
午前一時から二時間で午前三時。
ちょうど、退勤の時間になる。
午前三時半くらいに、アックスから帰宅した。
景子も千景も二階で眠っている。
弘は、二人を起こさないように、一階のリビングで寝た。
午前七時に目が覚めた。三人分の朝食の用意をした。
暫くすると、景子と千景が起きて来た。
「お父さん。遅かったんやろ」景子が聞いたので、「四時には寝た」と答えた。
「明日から、朝の用意は、おかあさんがするから、昼まで寝ときなよ」景子が云う。「それは助かる。お願いするわ」と弘は、答えた。
景子が、千景を保育園へ送って行き、そのまま浅井弁護士事務所へ出勤した。
個人事務所なので、比較的、勤務時間については融通が利く。
千景のお迎えは、弘が行くことにした。
弘は、会社を辞めてから、景子に金銭的な負担をかけている。
だから、できる限り、家事をするようにしている。
昼までゆっくりと眠って、午後十二時半に、有己輝Sへ出勤した。
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