5.アルバイト
有己輝Sなら、弘が、以前勤めていた会社だ。
今でも親しい人が、何人かいる。
聞いてみようと思った。
それこそ、宮崎は、同期入社だった。
一浪しているので、年齢は、弘より一歳上だが、ある事件を機会に仲良くなった。
宮崎は、新入社員研修を終えて、すぐに石鎚山営業所の営業三課へ配属になった。
宮崎は、栗林市出身だったが、石鎚山市にある私立大学出身で、石鎚山市に馴染みがあった。
だから、石鎚山営業所に配属になっても、別段、苦になっている様子は無かった。
後になって知ったのだが、入社試験の面接の時に、勤務地は、石鎚山市になると聞いていたそうだ。
つまり、面接の受けが良かったのか、面接の段階で、採用が決まっていたのだった。
宮崎は、すぐにMSになって、営業に出たが、成績は伸び悩んだ。
七年間、MSをしていたが、擂鉢堂との合併時に栗林市に異動した。
物流センター配送課に配属になった。
その宮崎に連絡すると、昼休みに物流センターの駐車場へ来いと云う。
メシでも一緒に喰おう、という事だった。
正午に、物流センターへ行くと、来客用駐車場で、宮崎が待っていた。
「おう。運転手さん。よろしく」と云って、宮崎が、弘の車に乗り込んだ。
「お客さん。何方まで?」弘は、タクシーの運転手になって返した。
「ひでや。まで」
お客さんの宮崎が、行先を告げた。
「はい。分かりました」弘が返した。
メータをセットする仕草をすると、くだらない会話で再会した。
「その、ひでや、って何?」
景子が尋ねた。
「ひでや」とは、会社勤めをしていた時、通っていた、うどん屋のことだ。
車の中で、行方不明になっている相田の事を尋ねた。
「なんや、そういう事か。分かった」宮崎は、残念そうに云った。
「何で、がっかりしてたん?」
景子が、不思議に思って尋ねた。
突然、弘から連絡があって、引き抜きかと思った、という事だった。
宮崎は、弘が、成功していたら、雇ってもらおうと、思ったそうだ。
冗談だろうが、給与月額をいくらで交渉しようかと、悩んだそうだ。
「ひでや」の店の外で、並んで待っている時に、宮崎から云われた。
「アッきゃん。物流で、バイトせえへんか?」
宮崎が真剣に云った。
「それって、相田さんが居なくなったから、代わりに、バイトしろっていう事?」
景子が聞いた。
「俺も、そう思うたんやけど。いや、実際に、それも、あるんやろぅけど、宮崎が、言うんは、なあ―」弘は、その時、宮崎が云ったことに、成程と思った。
「儂より、他の奴が、知っとるかもしれん」宮崎は笑っていた。
何故、笑ったかというと、宮崎は、怒りっぽいので、皆、寄り付かない。
仕事に関する報告は、当然、いや、これも怪しいものなのだが、入って来る筈なのだ。
個人的な情報であるとか相談などは、恐れられているので、一切、入ってこないと云う。
それで、来週の月曜日から、配送課でバイトをすることになった。
相田の替わりのバイトの採用が、決まるまでいいと云われた。
それまで、バイト仲間と世間話、いや、情報収集すれば一挙両得だと、説得されたのだ。
二兎を追う者は一兎をも得ず、と云う諺は、思い浮かばなかった。
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