4.行方不明

相田は、スーパーマーケットの「アックス」にアルバイトとして勤務していた。

午後十時から、翌日の午前三時までで、三十分の休憩を含めて、五時間の勤務時間だ。

アックスから帰宅すると、午前四時に就寝し、午前十一時に起床する。

午後一時から午後五時までの四時間、医薬品卸の有己輝Sに勤務している。


「でも、これは、あくまでも、偶然です。

有己輝Sは、弘が、債権管理課長として、勤めていた会社だ。

ある事件で、景子と知り合って、結婚した。

ごめんなさい。余談でした」


金曜日、午前三時十分前後に、アックスから帰宅した。

就寝した時間と、起床した時間は、分からない。

午後一時に、有己輝Sに出勤して、配送に出掛けた。

午後四時過ぎには、物流センターに戻っている。

午後五時、定刻に退勤している。

以後、行方不明。


相田は、有己輝Sからの帰宅時間を過ぎても、帰って来なかった。

何度か携帯に連絡を入れたが、電源は入っていなかった。

次の勤務、アックスへの出勤時間になっても、帰って来なかった。

体調不良のため休むと、奥さんがアックスへ連絡した。


翌日も、相田は、帰って来なかった。

再度、携帯に連絡を入れたが、電源は、入っていなかった。


相田の実家へ相談して、警察に捜索願を提出した。

月曜日に、相田の携帯から奥さんの携帯に、連絡があった。

有己輝Sの配送課の課長が、相田の携帯から、奥さんの携帯に連絡を入れたのだった。


金曜日に、相田が使用していた配送車両のダッシュボックスに、携帯が入っていた。

電源を入れてみると、何度か着信があった。

相田の携帯から、直前の着信履歴に発信したという事だった。

奥さんは、有己輝Sで、相田の携帯電話を受け取り、体調不良を理由に退職の手続きを済ませた。


相田の実家は、相田の自宅、栗林市石木町に隣接する同市丸肥町で米農家をしている。

祖父母、両親、兄夫婦とその娘の七人家族で暮らしている。

現在、相田の奥さんと娘さんは、相田の両親の住む実家へ身を寄せている。


アックスへは、相田の奥さん、葉子さんも午前十時から午後三時までアルバイト勤務している。


相田葉子さんの娘、乙葉ちゃんは、千景の通っている保育園の友達だ。

景子は、弘が、オトハちゃんを覚えていない事に、驚いた。


ただ、蛸の食べられないオトハちゃんという言葉で、思い出したようだ。

その事で、もう一度、驚いた。


「そうか。乙葉ちゃんパパ、居らんようになったんか」

弘が呟いた。


「ふふっ」景子は、笑った。「なんや?」弘が、不思議そうに云った。

「乙葉ちゃんパパって聞いた事ないから」景子は笑った理由を答えた。

不謹慎だが、なんとなく、笑ってしまった。

こんな風に、自然に笑ったのは、久しぶりだ。


「ああ、そやなあ。乙葉ちゃんママって、いつも聞いとるけど、乙葉ちゃんパパとは言わんのかのう。あっ、すまん。それで」

弘は、謝って先を促した。


「分かった。それで、オトハちゃんママが、その時の、旦那さんの様子を配送課の課長さんに聞いたんやけど」景子は心配そうに話した。


相田は、定刻に出勤すると、いつものとおり、荷物を整理して、配送車両に積み込んでいた。


午後二時くらいに物流センターを出発した。

担当している配送先は、栗林市郊外が中心になっている。


物流センターに戻って来たのが、午後四時半くらいだった。

伝票の整理、日報入力、車両内の整理をして、午後五時に打刻をして退勤している。


午後五時上がりのパートさんは、同じくらいの時間に物流センターへ戻って来るそうだ。

相田に、変わった様子は無かったようだ。


ただし、みんな、物流センターに戻ると、事務処理に追われる。

他人の様子に、関心を持つ余裕は、無いそうだ。

だから、もし、何かあったとしても、特別の事情が無い限り、それ以上の事は分からない。


景子は、嬉しかった。

真剣に、景子の説明する内容を弘は、聞いていた。


冴子さんから、指摘されて気付くようでは、いけなかった。

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