2.発達障害
「千景ちゃんは、全く喋らないんですよ」
担任保育士の山本先生が、意外な事を云った。
千景は、この四月から、この弥勒保育園へ通っている。
一番、最初に登園した時こそ大声で泣いたが、二日目からは、元気こそ無いが、泣くことも無く通っていた。
「はぁ?…それは、どう云う事ですか?」景子は、先生の云っている事が、分らなかった。
景子は、何か聞き間違えたのかと思った。
「お家ではどうなんですか。保育園では全く、喋らないんです」
保育園で、千景は、ずっと黙ったままでいると山本先生は云っている。
「家では、煩わしいくらいに、喋っています。確かに、危ない事はしませんが、家中、走り回っています」景子は、千景の自宅での様子を話した。
信じられなかった。
景子は、思い起こしていた。
先週、保育園のママ友と七夕パーティをした。
アヤノちゃんとも、オトハちゃん、ミカちゃんとも、ごく普通に、いや、煩いほど、喋っていた。
「そうですか。でも、保育園では、何も喋らないんです。後、考えられるのは、暴力を振われたとかですが、そんな事は、ありませんか?」
随分と、失礼な事をいともあっさりと、云われた。
それで、弘さんが、帰った時に、保育園へ千景を送り迎えした時の状況を尋ねた。
景子の勤務時間の都合で、弘さんが、千景を保育園へ送迎している。
今でも、確かに、弘さんが保育園へ送って行く時は、緊張したような表情になるそうだ。
駐車場から保育園の玄関まで、千景の顔は、強張ったまま、弘さんの手を力一杯、握りしめている。
少し健気で、景子は涙ぐんでしまった。
保育園へ迎えに行くと、千景は、ぼんやりと、どこを見詰めるでもなく、途方に暮れているような表情だそうだ。
弘さんの顔を見ると、千景の顔の造りが崩壊して、しかし、おっとりと、弘さんに近付いて来るのだそうだ。
景子は、また、泣きそうになった。
千景は、来た時と同じように、力一杯、弘さんの手を握りしめて、駐車場へ歩いて行くんだそうです。
山本先生の云っている事は解る。
しかし、虐待なんかする訳ない。
確かに、景子の云うことは聞くけれど、弘さんの云う事は聞かない。
弘さんに、云いたい放題を云っている時もある。
弘さんの表情が強張る事も度々ある。
だけど、絶対に暴力は振るわない。
ただ、一度だけ、弘さんが、大声で怒鳴ったことはある。
それが原因とは、どうしても考えられなった。
ハイザーのレバを何度も押して、お米を床にまき散らした時だ。
まき散らした米に、スプーンの柄で線を引いたり、点々と突いて、穴を作ったり、模様を描いていた。
それが、原因だろうか。
暴力と云われれば、そうなるのだろうか。
景子は、インターネットで検索してみた。
該当する内容は、すぐにヒットとした。
「場面緘黙症」だった。
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