窓辺 第13話

 シャーロックに初めての友人が出来てから五年の月日が流れていた。あの日、まだ何も知らなかった少年は青年へと姿を変えようとしていた。

十四になったシャーロックは変声期真っ只中の少し掠れた声で言う。

「今度は俺の家に泊まりに来てよ」

五年経っても何も変わらない窓辺で三人は円になって座っていた。手狭になったベランダで互いの足が少しだけ当たる。

「ええの⁉︎」

イーサンは昔から変わらない緑の瞳をキラキラと輝かせた。

「バレないか?」

赤毛の青年が怪訝そうに言う。身長も伸びて、うっすらとだが筋肉も付き始めた体には、少し窮屈そうなシャツを着ていた。

幼い頃からのボソボソとした喋り方は変わることなく、声が低くなった今、以前より若干聞き取りにくくなっていた。

「大丈夫だよ、部屋には誰も来ないし、隠れられる場所も作ったんだ」

シャーロックは得意げにそう言う。

「早速今夜はどうかな?」

「今夜はあかんわ、今夜は前から川に行くって言うとったやん」

シャーロックの問いにイーサンが答えた。

「ああ、そうだった。水切り、俺かなり上手くなったから今回は俺が勝っちゃうかな」

シャーロックはニンマリ笑う。

「無理だな、今回も俺の勝ちだ」

ロシュはシャーロックの目を真っ直ぐに見るとそう言い切った。





 シャーロックはすっかり慣れた様子で自身の部屋の窓からパイプを伝って脱出する。体が大きくなった今、色んな所に手が届くようになり、むしろ上達してさえいた。

いつものように屋敷の外まで迎えに来ている、いつもの二人と合流すると、早速目的の場所に向かい歩き出した。

たどり着いたのは貴族階級とそれ以外を分ける大きな川、セン川の支流。

中流階級が多く住むそこには大きめの橋が架かっており、川上には富裕層、川下には貧困層、と非常に分かりやすく貧富の差が伺える場所だった。

橋には時折車が通りかかる。

三人は橋の街灯で光るラピスの明かりを頼りに、水切りに最適そうな平たい石を探す。

最初に石を決めたのはイーサンだった。

まだか、この石には勝てない、などと他の二人を煽りながら暇を潰す。

ロシュとシャーロックも石を決めれば、三人だけの水切り大会の始まりだ。

ルールは至極簡単、一番水を切った者の勝ち。

戦いは五回戦まで続いた。

激闘の末に優勝の座を手にしたのはロシュだった。

「何やまたロシュかいな」

イーサンはため息混じりそうにこぼす。

「自信あったんだけどなぁ」

シャーロックも残念そうだ。

「シャーロックはかなり上手くなってたな、」

赤毛が言う。

「本当⁉︎やっぱり!次は勝つよ、」

嬉しそうにそう言うシャーロックをロシュはジッと見た。

「うん、頑張れ。無理だけどな」

悪い笑みを浮かべながらそう言う。一言多い、と怒りながらロシュを追いかけるシャーロック、

悠々と逃げるロシュ、石がダメだったんだと言ってより良い石を探そうと蹲っているイーサン。

そんな三人を見下ろして居る人物が一人、橋の上に黒々とした陰を落としていた。

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