窓辺 第12話

 ロシュもシャーロックの方へ顔を向ける。

シャーロックはしばらく瞳を揺らした後、少し唇を噛み、

「この時間がずっと続きますように」

と自信なさげに呟いた。

この願いは二人ありきのものだった、だがシャーロックが望んでいても二人も望んでいるとは限らない。

そう言った思いが言葉に出た結果の自信のなさだった。

流れ星が流れる。誰も何も言わなくなってしまった。

「ずっとは嫌だ」

沈黙を破ったのは赤毛の少年。

その強めの言葉にシャーロックはそっと拳を握りしめる。

「そんなん言わんくてもええやん!お前、ホンマそういうとこやぞ!シャーロック、俺はずっと続いてほしいと思ってるで」

イーサンが怒ったように体を起こしてそう言った。

「良いよイーサン、」

シャーロックは笑いながら左手でイーサンの手を握っていさめる。

いつも笑顔のシャーロックだが、この時の笑顔はいつもとは違うように見えた。緑の瞳の少年が眉間の皺をさらに深くして口を開こうとしたとき、

「違う。これ以外の楽しいことも皆んなでしたいから、ずっとは嫌って意味だ」

ロシュが淡々と言う。目線はずっと上、遠くの星を見据えていた。

二人は目を合わせる。

言葉少なな彼にしては上手く伝えて来た方だろう。

まぁ、その前に一回誤解させている訳だが、、

イーサンはニンマリと口角を上げた。

「お前、ホンマそういうとこやぞっ!」

弾むような声で言うと、起きあがった時と同じくらい勢いよく寝転がる。

シャーロックは上を見ているロシュの方を向いた。

「うん、俺も、二人ともっと遊びたい」

そう言ってはにかむと、星に視線を戻す。

「よぉし!そんなら次はここで朝日見よ!」

とイーサン。

「俺はシャーロックの家の中が見てみたい」

ロシュが呟いた。

「ふふ、良いね。どうやったら見つからずに中を見せられるか考えておくよ」

シャーロックがワクワクしたような声で言った後、

「でもなぁ、俺、全然時間無いしなぁ」

と落ち込んだように言う。

「確かに今は無いかもしらんけど、人生は長いんやから大丈夫やって!」

「うん。貴族の大人は暇そうだから、大人になってからの方が遊べるかも」

イーサンとロシュがクスクスと笑う。

「大人になっても一緒に居るの?」

シャーロックはそっと言った。

「‼︎、シャーロックは嫌やったか」

「まぁ、しょうがないだろ。俺たちみたいにはいかない」

シャーロックの問いかけに二人は残念そうに言う。

ロシュも口調はいつも通りだが、トーンがあからさまに下がっていた。

「違うよ!そうじゃなくて、」

シャーロックは慌てて付け足す。

「二人はすっごく仲が良いし、大人になっても一緒に居そうだけど、、俺とも一緒に居てくれるとは思って無かったから、、」

言葉じりが段々と小さくなっていった。

「何やそういう事か、一緒におるに決まってるやん」

「友達止める理由が無いしな」

「せや、お前が俺らのこと嫌いになっても、俺らが嫌いになることは無いわ、たぶん」

イーサンが付け足す。

「たぶんって、俺から嫌いになることも無いよ、たぶん。」

シャーロックはそう言って笑った。

「むしろ、嫌いになられたら付き纏ってやる」

赤毛は意地悪い笑みを浮かべる。

暗闇でも分かるその悪い顔にクスリと笑った時、イーサンが左手でシャーロックの右手を掴むと、空に向かって掲げた。

「大人になってもずっと一緒におんで!」

それを見たロシュも、右手でシャーロックの左手を掴んで同じように空に向かって掲げる。

「嫌われても付き纏ってやる」

自分の意思とは関係なく両腕を上げられたシャーロックは掴まれた手を掴み返して言った。

「二人が死んだ時は俺がとびきりの葬式を挙げてあげるよ」

「何やお前、一番長生きするつもりかいな」

イーサンが意外そうに言う。

「シャーロックはダメだ、こんなヒョロヒョロなのが長生き出来るはずない」

「は?ロシュ今俺のことバカにした?」

言いながら手を離して左手でロシュを小突いた。

「やっぱり一番長生きするんは俺やろ」

「「それは無い」」

二人は声を揃えて答える。

「何やとぉ!」

イーサンがシャーロックをバシンと叩き、起きあがってロシュに飛びかかった。シャーロックは声を上げて笑いながら滲んだ星を見上げる。

楽しくて、幸せで、そんな感情で涙が出るとは知らなかった。

ぼやけた視界の向こうでいくつも星が流れた。

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