窓辺 第7話

 「ホントに男なんだな、」

「だからさっきからそう言ってるだろう⁉︎」

シャーロックが苛立ちを隠さずぶつける。眉間に皺が寄りっぱなしだ。

あまりに笑うイーサンにもひと睨みきかせておいた。

「ごめん、」

赤毛の少年が小さく言いながら軽く頭を下げる。シャーロックは口をへの字に曲げて納得いかないという顔をしながらも、いいよと言った。

「ハーッ、ホンマおもろいわぁ、」

緑の瞳の少年は涙を拭いながらしみじみ言う。

「俺のこと話さずに連れて来たの?」

シャーロックが刺々しく尋ねた。

「いや、話しとったよ。それこそお前と知り合ったぐらいから」

イーサンは答える。

「結構前じゃん、じゃあ何で?大体“シャーロック”って名前自体、男の名前でしょう?」

ロシュを見ながらそう言う。

「俺は上流貴族の名前なんて知らない、」

赤毛はボソボソと答えた。

「まぁ“シャーロック”って名前は男一択の名前やと思うけど、そんな事関係無いのがロシュちゅう奴で、そーいうとこが俺がコイツほどおもろいもん見つけられへん理由やな」

イーサンがそう締めくくる。

「はぁ、人に向かって思い付くままに何か言ったの初めてかも、」

シャーロックはため息をついた後、どこか嬉しそうにそう言った。





 今日は朝から忙しい。

シャーロックの家が古くから懇意にしている家とのパーティがあるからだ。何度も服を着替えさせられ、髪をいじくりまわされ、正直ウンザリしていた。

それにパーティは昼に行うため、今日は絶対にイーサンとロシュに会えないのだ。

二人と話すことはつまらない日々の唯一の楽しみとなっていたのでそれが無い今日は全くと言っていいほど張り合いが無い。

まぁ、必ずしも毎日来るという訳でも無いのだが、、、

訪ねて来ないまま昼休みが終わった時の絶望感よりは幾分かマシかもしれない。窓辺でソワソワ待って居るこっちの身にもなって欲しいものだ。

だから、今日自分がいないことを二人には伝えなかった。

精々僕の気持ちを味わうがいいよ!

そんなことを思っているうちに相手の家に着いていた。

別にこの家に来るのが嫌な訳では無いのだ。

友達と呼ぶのかどうかは分からないが、話していて楽しい相手は居る。

だがその楽しさはイーサンやロシュと居る時の弾ける様な楽しさとは違い、

もっとゆったりとした楽しさだった。

この家の息子は自分より一つ年上だ。

息子と言っても血は繋がっていない。養子の子だそうだ。

ここには芸術品が多く飾られていた。

何でもこの家の男主人は美しいものを集めるのが趣味なんだそう。

シャーロックも芸術品には少なからず興味があったが、男主人のことは昔から漠然と苦手だった。

何が苦手なのか、と問われれば何となくとしか言いようが無かったが、合わない相手というのはどこにでも居るだろう。

シャーロックの屋敷に引けを取らない大きな屋敷のパーティルームへ通された。

高い天井まで続く大きな窓にはこれまた大きなカーテンが引かれている。カーテンの細かな装飾は近くで見ないと描かれているものが何か分からないほどで、織り込まれた糸の一本一本が生きているかのように力強さを感じさせる。

天井からいくつもつり下がる特大のシャンデリアがゆらゆらと揺れ、会場に集まる多くの人を照らした。

沢山の食べ物や人が居る中、シャーロックは他のものには目もくれず、淀みない足取りで歩き出す。

向かう先には壁にもたれ掛かってつまらなさそうにしている少年。

この家の一人息子だ。

「久しぶりですね、レイくん」

シャーロックが少年に声をかける。冷たいような厳しいような、印象的な視線を持つ子供だった。

「シャーロックくん、」

レイと呼ばれた少年が伏せていた目を上げて言う。

「僕、レイくんが前に言っていたこと、やっと分かったんです」

「、、、前に言っていたこと?」

突然の発言に一瞬押し黙ったレイだったが、表情を変えずに聞き返した。

「ええ、“信じるものは自分で決める”って、前言っていたでしょう?」

「ああ、そんなことも言ったかな」

レイが理解したような声を上げる。

「僕、自分が信じてたこととか、好きだって思ってたことが、実は人から与えられたものだったって気が付いたんです。でも、自分が本当に好きで、楽しくて、信じたいことが何か分かったんです。自分で決めるってことの意味が、やっと分かったんです!」

シャーロックは嬉しそうに言った。

「へぇ、、、それは、良かったですね」

レイは、常には無い早口のシャーロックに気圧されたように呟く。

「随分と楽しげに笑うようになりましたけど、何か良いことでも?」

「‼︎、、実はね、」

シャーロックは目を輝かせ、誰にも話したことの無い秘密をレイにこっそり打ち明けた。

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