第16話

 もうすぐ、冬が終わる。

 愛しい冬が終わると、春が来る。陽気で怠惰にまみれて、笑えてくる季節ね。

 私は冬が好き。

 生まれのせいもあるかもしれないけど、暑くなると体がばてちゃうのよね。

 だから、春先になると、さっさと暑さをしのぐために、半そでを身に着けるのよね。じゃないと、すぐに派手ちゃう。

もうそろそろあたたかくなったと思ったら

「寒くなったわ」

「だから毛布はまだしまうなっていったんだ」 

 温度差で風邪ひいちゃいそうよ。

 だって昼間は暖かかったのよ。だからもういい加減に冬の季節のものをしまっちゃえとがんばったのよ。毛布とかふわふわの毛のコートとか。失敗した。全部クローゼットの奥深く。これだと風邪をひいちゃう。

 旦那さんが呆れた顔をしてる。

 うう。

 こんな傲慢で好き勝手にふりまわしてくる季節って嫌いよ。ちょっとあたたかいと思ったら実は寒かったとか、人を馬鹿にしているわ! 昼間の私の荷物を整理整頓する奮闘をなんだと思ってるの。あれだって大変なのよ! 季節め!

 ああ、ないものにキレたところで、どうせ意味ないんだけど!

 むすっとしたまま、旦那様のむき出しの胸板を見る。

 えいや。

 私が抱き着くと旦那さんが抱きしめて返してくれたわ。ああ、あたたかい。

「寒いから、あなたで暖をとるわ」

「俺は君で暖をとろう」

 寒さに弱い旦那様は積極的にすり寄ってくる。ふふ、銀幕の下では、肌寒い雪の下でも、常夏でも平然と駆けまわっている人なのに。

 私の体を弄って、甘えてくるの。ほんと、かわいい。

 くすぐったいのと、気持ちいいのにくすくすと笑っていると旦那様が、しっとりとした目で私を見つめてくる。ああキスされる。どこにいても体の芯を溶かすぬくもりで包まれる。

 定まらない季節って嫌いだけど、こういうのは嫌いじゃないし、いいわ。

 早とちりで、我儘な季節にこうして振り回される役得を味わいましょう。



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喋喋喃喃 北野かほり @3tl

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