第8話

 食事は祈りに似てる、といったのは私の旦那様だわ。

 私はお皿を見て、ちらりと旦那様を見る。

 栄養を考えて作られる、素敵な食事。それを愛する人が作っているとなおのこと、おいしさは違う。

 ただ彼の作るものはいつも祈りに似ている。

 芸術的とか、そういうのではなくて。

 ギリシャ人は信仰深いから、いつもお祈りをしている。そのくせ自分の国の神話は異端だっていうんだから少しだけ笑う。

 そんな彼はいつも食事の前に祈りをして食べる。私はそんなことしないけど、彼と暮し始めてからその祈りの時間だけは待つようにしている。

 祈りが終わって彼が目を開けた。

「食べようか」

 いつも待たせてすまなさそうに、目尻の皺を緩めて彼は言う。その顔が私はとても好きだと思う。

「なにをそんなにも熱心に祈ってるの?」

「君の幸せを」

「・・・・・・私、祈り方を知らないんだけど」

 ずるいわ、あなただけ。私のことをいっぱい考えて。詰るように言うと彼は小首を傾げた。

「ん?」

「私はあなたの幸せを祈りたいのに」

「手を合わせて、幸せでいますように、そう心の中で祈ってくれたらいい」

「・・・・・・わかったわ。これからそうする」

「俺は、俺の作ったものをおいしそうに食べる君がとても好きだよ」

「ぷくぷくになるわ」

「俺の作ったもので、君が半分近く構成されている。最高じゃないか」

 やだ。変態ちっくじゃない!

 けど、違いないわ。

 この三年で、私、きっとほとんど彼に作られちゃった。

 私の体はきっと彼によって作られてる。彼の、私の思う祈りの気持ちで。

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