第6話

「私、太ったの。だから、しばらくダイエットするわ」

 私の宣言を旦那様がとっても真面目な顔で聞いてる。そのくせ、手はお肉を切ってる。

「今日の昼は肉のパイの予定なんだが」

「野菜に変えて」

「夕飯は、君が以前食べたいといっていたギリシャのムサカの予定なんだが」

「変えて」

「ふうん」

「なによ」

「いつまでするんだ?」

 ウーゾを飲みながら旦那様が聞いてくる。ギリシャのお酒で、とても臭い。ハーブのお酒だ。それを水で割ると白く濁る。それをいつもちびちびと飲みながら料理を作るのが彼のスタイルだ。

「痩せるまで」

 正確には、このおなかの贅肉が消えてしまうまで。

「俺は妻の体積はいくらあっても気にしないがね」

「体積って……私がいやなの。お仕事できなくなるでしょう」

 その言葉に旦那様の目が私を睨みつける。おっと、これは禁句。

「なにをするんだ」

「いつか、また、女優業を?」

 これは疑問形。

 田舎から出てきた世間知らずな私は、旦那様と出会って、恋をして、ドラマを一本とったら引退した。

 理由は簡単よ。

 旦那様が「仕事しないでほしい」と言ったから。じゃあ、なにする? と聞いたら、いろんなことをしたらいいと言われた。いろんなこと。この三年でいろんなことをした。旅行に、家事に、カジノに、愛し合うことに、喧嘩に、読書に……いろんなことをしたから、そろそろ私は私の昔の夢を追いかけたくなっちゃった。けどそれを旦那様はさせたくない、らしい。

「君が男どもに尻を見せてキャーキャー言わせれるのはむかつくね」

「お尻を見せるって決まってないじゃないっ」

「君が俺と結婚する前に受けていた仕事は、海でのはちゃめちゃものだったな」

「B級映画だけどいいやつよ」

 なんか知らないけど、怪獣と殺人鬼とホラー女が出てきて、ビーチの――なんでか女しかいないんだけどね――殺していくってやつ。私は一番はじめに殺される役。ビッチじゃないわ。名もないエキストラで、お尻を見せて死んだ。だってあのときの監督がお前の尻はいいっていってくるから。

「そのために俺は君にダイエットをさせるのか」

「あなたしか今は見ないでしょ」

「俺はもっとぷくぷくな君が見たい」

「ぷくぷくって」

 もっと太れといの? あなたと結婚して、私、順調に五キロも増えたのよ? まだ足りないのかしら。この人

「あなた、太ったの?」

「まさか。仕事柄、その手のコントロールはしてる」

「ん、もう。私ばっかり太らせて」

「キッチンを支配しているのは俺だぞ」

 ふふんと勝ち誇った顔をしてくる。むかつく。

「どうせ私、料理の才能はないですよー。むぅ」

 ほっぺを膨らせまたら両手で挟んできた。やた、やめてよ。旦那様ったらっ

「君はもっと太るといい。太ったほうが魅力的だし、かぶりつきたくなる」

「そんなこといったら百キロの大女になるわよ」

「……そんなこと俺がさせると思ってるのか? キッチンを支配してるのは俺だぞ。ほら、肉のパイを作る。今日は一日二人で運動しよう」

「……ベッドで?」

「ジムに行くつもりだが、そっちがいいのか」

 呆れた顔をして見つめてくる旦那様に私は、またしてもむきぃと悲鳴をあげた。この人、ほんと、意地悪いの。嫌いよ。そういうところ! ううん。悪党ぽくて好きだけど、そんなこといっらた絶対調子に乗るから言わない。ほんと、むかつく。

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