第2話
私の旦那様はとっても年上でなんでもできる。そつがないし、ユーモアにとんでいるけど、差別はしない、ほとんどのことは怒らずに穏やかに受け流してしまうスマートさがある。
ようはとっても大人ってこと。
どうして、そんな人が私と結婚してくれたのかが世界の謎の一つじゃないかしらと首を傾げる。
私だって一人暮らしをしていたから料理ができないわけじゃないわ。訂正。出来ない。だって一人暮らしのときはいつもデリバリしていたから。あの濃厚でくそまずい焼きそばとか大好きだったのに、旦那様と結婚してからは彼の作る絶品料理の虜。朝だってトーストと卵にハムとかいうどこのファミリー映画? っていうごはんがいつも出てくるのよ。最高だわ。
二十四歳も離れているせいか、彼ってば私の世話をするのが楽しいみたいなの。
ごはんをつくって、お風呂も結婚してすぐにはいれてこようとするし。仕事の合間に掃除もしちゃうし、私はなにをすればいいのって思わず聞いたら
「そこにいたらいいよ」
なんて言われた。
これじゃあ、私はただの置物でしょ! 思わず噛みついたら、そんなことはないって否定して、二人して子供ぽくムキになって喧嘩して、そのあとちゃんとチョコとお酒と花束をプレゼントして仲直りしたのはいい思い出。
彼のしてきたことはこの二年ほどずっと見てきたのに、私って、才能ないのね。
焼けた卵焼きを見て私はため息をついた。彼みたくうまくできないの。
捨てるべきなのかしら? もったいくない? どうしてパンケーキ一つうまくできないのかしら。
「ダーリン、フライパンと見つめ合ってキスでもするのか?」
「キスなんてしないわよ。ちょっとどうしようか迷ってるの。この出来損ないちゃんを」
「・・・・・・墨じゃないか。捨てたほうがいい」
「そうよね」
キッチンに入ってきた旦那様が私を見て笑う。最近、私がキッチンにはいることを寛容してくれた。
今までは全部私の世話をしたいってきたのに、最近は余裕が出来たのかしら? キッチンでの罪深い失敗を笑って流してくる。それとも私に飽きちゃったの?
「・・・・・・なぁに、ダーリン」
「ううん。なんでもない。あなたが夕飯は作ってよ」
「君はくそまずい焼きそばが食べたいっていったね。ほら」
「うそー、デリバリのやきそばっ」
健康に悪いとか、太るとかいって食べさせてくれなかったくせに! ちゃんと二人分あるし、ピッザまである! ああ、太るわ! あんなに嫌ってるのにわざわざ買ってくるなんてどういう心境の変化なの。
「あとこれも」
一輪差しの薔薇なんてしゃれてる。
「今日はコーラも買ってきた。二人で行儀悪くテレビを見よう。コメディでも」
「・・・・・・げっぷしちゃうかも」
「俺もするかもしれない。そのときはキスして塞いで」
見つめ合った私たちは笑い合った。了解よ、と口にしてキスをする。
私は急いで薔薇を一輪だけ花瓶に挿したあと、二人で今日は怠惰な夕飯を過ごすことにした。
結婚して三年目。
好きな人にあわせてお上品にしていた私は、その日、ソファでピッザとコーラを食べて、旦那さんの腕のなかでコメディ映画を見たわ。おなかがよじれるくらい笑っちゃった。
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