第18話 貴族の誇り高い精神の前ではすべてが無かったことになる
「ルミニ様!私、二コラ様には婚約者として紹介されていましたが、本当は嘘なんです。私はそんなことは望んでいないのに二コラ様が無理やり私のことを婚約者になさったのです。
ルミニ様のお力を見込んでお願いいたします。どうか、私のことを助けてください。」
ニコラがルミニの派閥へとめでたく参加したその夜、リズが何をしていたかというと、秘密裏にルミニの元を訪れていたのだ。
彼女が彼を尋ねた理由はもちろん、ルミニに乗り換えるためだ。最近ではどうすればニコラよりもグレードの高い相手に乗り換えることが出来るのかということばかり考えていたこともあり、彼女が行動を起こすのは早かった。
もちろん、理由はそれだけではない。ルミニの目の前で二コラと仲良くしている時間が多ければ自分の言うことを信じてもらえられなくなるからだ。
彼女がルミニに乗り換えるために取った手段とは、二コラに無理やり婚約者にさせられている悲しい女になることだった。
ルミニと過ごした時間など皆無であるが、リズは彼のような人間を今まで沢山見てきた。こういう人間は少しだけ自分の考えに同調してやるようなことを言ってやればすぐに思い通りに行動するのだ。
「何を言っている、二コラは今日、私の派閥に入ったのだぞ。そんな彼と早々にもめるなど、私の沽券に関わる。今の発言は忘れてやるから、諦めるのだな。」
「そんな、お待ちください。私はルミニ様が貴族の中の貴族と考えているからこそ、あなたにお願いを申し上げたのです。彼の本来の婚約者は私ではないのです。二コラ様の親が決めた婚約者を切り捨て、私を無理やり婚約者としたのです。
その様な人間をルミニ様の派閥においておくのはあまりにも危険すぎます。高貴な貴族であるルミニ様であれば政略結婚の大切さは理解されていると思います。どうか、あなたの貴族としての誇り高い精神で私を助けてください。」
元々、二コラが婚約破棄を言い渡す原因となったのはリズ本人であるが、そんなことは彼女はとうに忘れてしまった。いや、そんなことは別に嘘でも何でもいいのだ。要は、ルミニをやる気にさせるだけでいい。
「あははっ、気に入ったぞ!気に入った!私にそこまで言う女は初めてだ!いいだろう、確かにお前の言う通りだ。そのような貴族の片隅にも置けないようなやつを私に派閥に入れておくなど、デメリットしかない。
しかし、そうなってしまえばお前も二コラの元婚約者として誰も貰い手がいなくなってしまうだろうからな。仕方ないから私がお前をもらってやろう!」
ルミニはリズの言っていることに賛成しているようだが、彼がジャーニに対して大した理由もなく、婚約破棄を行った事実を忘れてはいけない。政略結婚の大切さを理解しているということに賛同している割には自分だって二コラと同じようなことをしているがそんなことは貴族の誇り高い精神という言葉の前ではすべてが無かったことになるのだ。
彼の中ではその言葉がすべてだ、初めは二コラを排除するというリズの考えに反対であったルミニも最後にはリズを二コラから強奪するという考えに至ってしまった。
「ありがとうございます!」
リズは頭を下げ、ルミニに対してお礼を告げる。しかし、そんな彼女はほくそえんでいることをルミニは知らないのだった。
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