第9話 いきなり厨房に入れそうです
チアが料理人たちに出そうと考えていた料理はうどんと呼ばれるものだった。それはチアの両親が生きていたころに母親から教えてもらった料理でどこを探してもこの料理を見たことがない。
チアはこの料理は母親とよく作っていたことや、珍しい料理ということもあって料理人たちに驚きを与えるという目的もあり、この料理を選んだのだ。
チアが料理をしている間、料理人たちは一挙一動を見逃さないようにと、注目している。そんな彼らであるが、チアが調理を終えるまでは一切話しかけてこない。これこそが彼らが料理人たるゆえんなのかもしれない。
「完成です、これが私に出せる最高の料理です。食べてみてください!」
チアはうどんが完成し、料理人たちに勧めるが彼らは困惑していた。
「なぁ、これってどうやって食べるんだ?こんな細長いものを食べたことがないんだが。」
「あっ、そうですね。これはフォークを使ってこのように食べます。ぜひ、召し上がって下さい。」
チアが初めに手本を見せて料理人たちに食べ方を教えると各々がうどんを食べ始める。
「ん!こ、これはうまい!それになんだこののど越し、つるつるとしていて面白い。」
「これは、文句のつけようがない。」
「そ、そんな、これは俺の作る料理よりもうまい。くそっ、まさか新人に負けるなんて。」
うどんを食べた料理人たちの反応は千差万別だったが全員がチアの料理を認めていた。むしろ料理人の中には新人であるチアに負けてしまったことを悔しそうにしているものまでいる。
「天才だ、こんな料理を俺は見たことがない!」
料理長はチアのうどんに負けを認め、完全に打ちのめされてしまっていた。それくらい、彼女の提供したうどんは美味しいものだったのだ。だが、これは彼女の母親から教えてもらった料理であり、チア本人が考えたわけではないのだ。
自分で考えたわけでもないのにここまで褒められてしまうのもなんだか気恥ずかしい。
「あの、これは母から教わった料理で別に私が考えた料理ではないんです。ですのでそこまで褒められても困ります。」
「何言っているんだ!母親の料理を作ったのはお前自身なんだ。それはお前の手柄と言っていい。それに、こんな料理を出したやつを厨房に入れなかったら他の料理人なんていったい何人が残ると思っているんだ。採用だ!今日から厨房で働いてくれ。」
それは料理長にチアが認められた瞬間だ。彼が料理人を厨房へと入れるということは料理人の腕を認めたということになる。
「えっ、いいんですか?私、新人なんですけど。」
「もちろんだ、むしろぜひとも厨房に入ってくれ。さっきは悪かったな、あんなことを言って。でも、俺たちにとって厨房は神聖な場所なんだ。それだけは覚えておいて欲しい。」
「分かりました、ぜひ、厨房に入らさせていただきます。それに、料理長さんに認めて頂けたこのチャンスを生かして見せます!」
こうして、チアは初日にして厨房に立ち、料理の一部を任せられるのであった。
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