第3話 理不尽は世にはびこっている

「あの、もしかして貴族のかたですよね?私なんかが話しかけてしまって大丈夫なんですか?」


「あぁ、そんなの良いですわよ。気にしないでください、貴族だの平民だの言うのは古いですわ。」


幸いなことに、彼女は貴族や平民というのを気にしないような心の広い女性だったのだ。そのため、チアとその女性はお互いに愚痴を言い合うのだった。


彼女の話によればつい最近、何年も婚約者でいた存在に突然婚約破棄を言い渡されたそうだ。理由は貴族を貴族として扱わないことに不満があったらしい。


彼女の婚約者は貴族であることを誇りに思っている節があり、彼女が平民にも仲良く接することが気に入らなかったのだ。


「ほんと、いやになるわ。貴族が平民よりも優れているなんて、いったいいつの話をしているのかしら?時代錯誤にもほどがあるわよ。」


「そういうもんなんですね。私、てっきり貴族の人ってみんなそんな感じなのかと思っていました。それにしても、そんなことで婚約破棄をしてくるなんてひどい人ですね。もともと、婚約なんてする気がなかったんじゃないですか?」


「ほんと、はなから遊びだったんじゃないかと思ってしまうわ。それにしても、あなたのほうもひどいわよね。だって、その婚約者が選んだ相手ってあなたの実のお兄さんなんでしょ?流石に見る目がなさすぎない?」


「そうなんですよ、百歩譲ってすでに関係は冷え込んでいましたし、彼に何の未練もないので婚約破棄をされるのは良いんです。でも、あんな往来で普通しますか?どれだけ私が傷ついたことか。」


チアは往来で婚約破棄をされたことに関して愚痴を言っているが問題はそこではない。彼女が言いたいのは婚約者の選んだ相手が男だということだ。


「いやいや、そこじゃないわよ。あなたの元婚約者が選んだ相手がお兄さんだったということよ。本人は自分の選んだ相手が男ってことを知っているの?」


「そんなの知りませんよ、私が村のみんなに彼女は男なんです!って言っても私の身なりじゃ、容姿が姉に負けているからって家族を陥れるのはみっともないぞって村のみんなから総スカンを食らっていたんですから。」


「うわ~、あなたも何だかんだ苦労しているのね。私はあなたと出会うまで、この世で一番不幸と思っていたけど、なんか元気出たわ。」


「人の不幸でホッとしないでくださいよ~。」


こうして、彼女たちの愚痴の言い合いはまだまだ続いていくのであった。

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