それでは早速、筆跡を見せてもらおうか
土曜日と日曜日を挟んでやってきた月曜日。
この土日の間、ちらちらポストの周りや中を確認してみたが、特にこれといった怪しい動きはなかった。手紙もない。
今日も朝ごはん(グラノーラに牛乳入れただけだけど)を食べて、学校指定の紺色ブレザー&スラックス+青色毛糸の手袋を装備し出撃。その時ポストを見てみたが、封筒はなかった。
俺は登校しながら考えていた。俺の家にやってきたことがある女子は五人いる。そのうちクラスメイトは四人。
まず俺と同じ吹奏楽部所属の
まぁ正確には家に来たっていうか、朝練のときアパート出ていきなり出くわして、俺の家ここなんだーほらポストあるっしょって見せただけで家には入っていないが。
伊那だけクラスが別だが、部活が一緒なので五人の中では最もしゃべっていると思う。
次にハンドボール部所属の
二人は班で一緒に作業したりなんやらかんやらしていたらしゃべっていくようになった仲だ。二人は幼なじみらしい。
俺が一人で帰っているときに会って、それが家の近くだったから俺の家ここなんだーほらポストあるっしょって見せたら、ちょっと中を見てみたいってんで上がってもらった。
二人は仲良しなので、どちらかとしゃべる機会があればもう一方ともしゃべる、みたいなことが多い。
んで、バスケットボール部所属の
文房具買いに出かけたら自転車のタイヤをパンクさせた未香がいて、俺は修理キットや空気入れを家に置いていたから直してやった。その時上がってもらってちょっとしゃべった。
もともと席が近かったこともあって入学してからすでにそこそこしゃべっていた。今回のクラスメイト四人の中では最もしゃべった回数が多いかもしれない。一回の量自体はさほど多いわけでもないけど。
そして剣道部所属の
日直が一緒になった日、部活終わってげた箱でまたばったり。その流れで一緒に帰ることになって、登下校ルートがほぼ一緒・かつ凉子の帰り道の途中に俺の家があることがわかり、やはりちょこっと紹介して中でちょこっとしゃべった。
親がちょっと厳しめらしく、一人暮らしに興味があるようだった。
日直選びはくじ制なのに凉子と一緒にしたのが二回あって、二回とも一緒に帰ってうちでしゃべった。
……と、この五人くらいしか思い当たらないんだよなぁ……もし近所の人とかだったら完全にわかんねぇっ。とにかくこの五人の書く文字を調べてみよう。
登校中にブレザー+スラックスorスカートの基本装備者に加え、十二月ってことでマフラー・手袋装備者、上着装備者など様々な生徒を見かけたが、その五人には会わなかった。
俺のクラスは一年二組だ。教室の横開きドアを開けると、まず見つけたのはバスケ部の未香だ。
さすがバスケ部なのか身長が高い。男子たる俺よりも高いウッウッ。髪は肩より長いが体育やバスケのときはポニーテールに変身する。女子の中ではかっこいい系になるかな。
席に座って一時間目の国語の準備をしている未香に声をかけることにした。
「お、おはーよ未香っ」
「あーおはよ遥斗」
(普通そうだけどな……)
イメージだけど、ラブレターを送った相手が現れるとどきどきするとか~……ちょっとマンガの見すぎ?
「未香、ノートをちょっと見せてくれないか?」
「いいよ。写し忘れたとこでもあったのかい?」
「あいや、単にどんなノートかな~と思っただけ」
「そっか。はい。じゃ遥斗のも見せてくれよ」
「あ、おう」
俺は黒いリュック型のカバンから国語のノートを取り出して、未香と交換した。
(うーん……)
表の名前や『国語・現代文』の文字とかをはじめとして、中のページをぱらぱらめくりながら未香の字を確認してみた。
割としっかりした字で、手紙の文字とは違うかな。あれはもうちょっと丸い感じだからなぁ。
「へー、遥斗は結構まめにノート書いてるんだね」
「黒板のを写してるだけだけどなぁ~。未香のノートもきれいだな」
「そっか?」
グラフとかもちゃんと書いてる。フリーハンドっぽいけど雑ってわけでもない。
「ありがとな」
「ん」
お互いのノートを戻し合った。未香はやんわり笑顔だった。
お、ハンド部の朔夜と茶道部の杏はやはり仲良しこよしなのか、朝から二人一緒におしゃべりしているようだった。
ので早速俺は近づいた。
「お、おはーよ」
「おはようー」
「おはよ」
朔夜は俺と身長が同じくらいだ。ほんのちょこっと朔夜の方が低いくらい。おとなしい系ではあるがハンドボール部所属でしっかりしている印象だ。髪は肩にぎりかからないくらいの長さ。
杏は身長が低い。こっちも一応はおとなしい系になるだろうけど、ちょっと不思議な感じの要素もあるというか。髪は割と短め。家でしゃべっているときの正座してるピシッとした姿はさすが茶道部だと思った。
「あのさ、二人のノート、見せてくれないか?」
「これ? うん、いいよ」
「じゃあ遥斗のも見せて。見せ合いしよう」
「おう」
ということで三冊のノートが朔夜の机の上に広げられた。
朔夜の字はザ・女子って感じ。丸くてちっちゃい。手紙の字とは遠いな。あれはこんなにちっちゃくなかった。
杏の字も丸め。朔夜ほど丸すぎず小さすぎずだが、やはり封筒の字のようなしっかりさ具合は見られない。てか絵多いな!
「杏ちゃんのノートかわいいなぁ~」
「先生にも言われる」
「絵描きまくりじゃん」
「落書きじゃないよ」
補足の説明とかをかわいらしいキャラクターが行っている感じ。猫が好きなのか?
「遥斗くんも結構しっかりノート書いているんだね」
「意外」
「うっせっ!」
杏からの漢字二文字攻撃を受けた。朔夜はちょっと笑っていた。
家庭の時間、剣道部の凉子と同じ班になった。今日はナップザック作りの続きだ。
凉子は俺と身長が同じくらい。ほんとに同じ。家が厳しめだからかしっかり者のイメージで、そのイメージのまましゃべってる姿もピシッとしているというか。あれ、俺がピシッとしてなさすぎなのか? 髪は女子にしては短い方だが、いつも前髪をピンで留めている。
「凉子、その裁縫セットは前から使ってそうだけど、中学のときのとか?」
「そうよ。遥斗のも中学校から使っているの?」
「ああ。まぁ授業以外では全然出番ねぇけどさ、ははーっ。ちょっと見せてもらってもいいか?」
「いいわよ。そんなに珍しい?」
「ああ、うんー、まぁ?」
薄い赤色を基調とした裁縫セットで、裁ちばさみや糸切りばさみなどをはじめとしていろんな道具に名前が入っている。箱自体にも名前が書かれてあったが、しっかりめの字だった。今のところ手紙の字に最も近い。
「うわ、まち針にすら名前入ってやがる!」
「中学校入学のときに買ってもらって、全部お母さんが名前書いたの。昔は鉛筆一本一本にも名前を書いてくれたわ」
「ん? じゃこれは凉子の母さんの字?」
「そうよ」
なんだ本人ちゃうんかーい。
「じゃ、じゃあさ、生徒手帳見せてほしい、なー」
「いいけど……どうしたの?」
「い、いや、親子で字が似てるのかなーなんて、ははーっ」
「特に意識したことはないけれど……はい」
「中も見ていいか?」
「いいわよ」
ブレザーの内ポケットから生徒手帳を出してくれて、早速表の名前やクラスの文字、中もぱらぱら~っとめくって確認してみた。
母さんの字とは少し違って丸みがあるなぁ。他の三人よりかはやっぱり手紙の字に最も似ている。ただ生徒手帳の書く欄って小さいからなんとも言えないような。
(でもさ。しゃべってる限りではいつもの凉子だよなぁ……)
やっぱマンガの見すぎ?!
「さんきゅ」
俺は生徒手帳を返した。
「今度遥斗の生徒手帳も見せてくれない?」
「ああ、もちろん」
凉子はちょこっと笑うと、縫う作業を再開させた。
部活の時間になった。伊那とは同じ吹奏楽部だから、楽譜も見せてもらうことにした。
「伊那、ちょっと楽譜見せてくれないか?」
「うん? いいけど、なに?」
「あ~、フルートの楽譜の五線譜からの飛び出し具合を見てみたくなったというか~」
「なにそれっ」
なんか笑ってる。うまくごまかせているようだっ。
「遥斗のも見せてよ。
「いやさすがにフルートに比べれば……ほい」
お互いの楽譜ノートを交換して、いざ。
(うわー、これは……)
結論から言おう。全然字が違った。まぁ演奏中とかのメモ書きだから急いで書いている分ちょっと参考にならない字だったかもしれないけど。
一応表紙の名前とかも見てみたけど、めっちゃデコって描かれていて、やはりこちらも参考にならなかった。
(そうだ、凉子パターンを使って……)
「なぁ、生徒手帳も見せてくれないか?」
「生徒手帳~? なんで」
「あいや、ほら、これ急いでしゅばばーって書いてあるからさ、普段の字どんなんかなーって……な?」
「生徒手帳はカバンの中だから今はちょっと取りに行けないけどー……」
と言いながら伊那は自分の楽譜ノートをぺらぺらめくって、
「この辺のはその、しゅばばーじゃない字、かなぁ」
見せてくれたページは、あぁこれ講習会のプリントを貼っ付けてあんのか。
なんか丸いかどうかっていうよりかは、文字の間隔が大きい? あの封筒の字はもっと詰め詰めだった。ぱっと見ただけであぁ違うなと思った。
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