七枚のカード

ひるま奈津

七枚のカード

 目の前に七枚のカードが並ぶ。

 一面の濃紺に、それを縦横に貫く白い線。

 さぁ、この中から一枚好きなものを選ぶといい。それが君に与えられた切り札だ。

 わけも分からないまま、僕は真ん中のカードに手を伸ばした。

 そう、それにするの。

 さぁ、優しい子。とびきり優しい君は、そのカードをどう使うのかな。



 エドが泣いている。泣いて、僕の服をつかんでいる。その手には、くしゃくしゃに握られた一枚のカード。一面の濃紺に、それを縦横に貫く白い線。僕たちが生まれる前、この世界に堕とされる前、せめてもの慰めになればと母さんがくれた切り札。

「殺してくれ!・・・コロしてくれ!」

 エドが泣いている。さっきから同じ言葉を繰り返している。エドは死ねない。それがエドの切り札。七枚のカードから彼が選んだ運命。選ばされた運命。訳も分からず、つかまされたカード。

 僕はエドを振り払えないで、すがりつく彼を見下ろして、ただじっと、彼の手に握られたカードを眺めた。母さんの言葉が、頭の中で、ずっと響いていた。


 さぁ、優しい子。とびきり優しい君は、そのカードをどう使うのかな。


 母さん。ねぇ、母さん。なぜあなたは僕を優しい子なんて呼んだんでしょう。なぜあなたは、僕にそんな言葉を植えつけたんでしょう。おかげで僕は、あなたに愛してもらうために、優しい子であるよう努力しました。優しくあろうと努力しました。それが正しいかなんて分かりません。だって、誰も優しさなんて教えてくれなかった。僕は優しくありましたか。あなたの望んだとびきり優しい子でいましたか。ねぇ、かあさん。おしえてください。ぼくは、ぼくは、

 右手を振り下ろした。一面の濃紺に、それを縦横に貫く白い線。それがエドの首をかすめて、白い線が赤い線に変わる。知っているよ。これだって、すぐにまた白くなるんだ。カードは、母さんが僕たちにくれた最初の贈り物。僕たちはそれを汚せない。

 エドの体がゆっくりと僕に向かって倒れてくる。もう、僕の服を握る力はない。それでもカードだけは手放すまいと、最期まで握りしめていた。

 床を這うエドの血が、均等に均一な円を描く。僕の足は動かないまま、その波をせき止めた。

 エドはもう動かない。最期まで握りしめていたはずのカードも砂のように溶けて消えていた。切り札もこれでおしまい。


 僕は、血を浴びていつもより数倍重くなった腕をぶら下げたまま、くしゃくしゃになった僕のカードを見た。裏側には、僕の、絶対不可侵の能力。


----いつでも、どこでも、だれでも、殺せる



 目の前に七枚のカードが並ぶ。

 一面の濃紺に、それを縦横に貫く白い線。

 さぁ、この中から一枚好きなものを選ぶといい。それが君に与えられた切り札だ。

 わけも分からないまま、僕は真ん中のカードに手を伸ばした。

 そう、それにするの。

 さぁ、優しい子。とびきり優しい君は、そのカードをどう使うのかな。


 僕の選んだ運命。僕が選ばされた運命。母さんが僕だけにくれた贈り物。母さんがどうしても僕に握らせたかったカード。


 僕は知っている。

 目の前に並んだ七枚のカード。

 一面の濃紺に、それを縦横に貫く白い線。

 裏には七通りの切り札が書かれていて、僕はそこからひとつを選んだはずだった。

 でも、僕は知っている。

 並んだカードの裏側には、

 すべて同じ言葉が、

 書かれていた。

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七枚のカード ひるま奈津 @hiruma_natsu

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