第2話

「むにゅー」

 

 僕はガッチリと手を拘束されたまま辺りを見渡す。

 億ションの最上階からの雄大な景色が見れるであろう窓には大きなカーテンがかけられていて、外を見ることは残念ながら出来ない。 

 

 部屋にはトイレ、お風呂、キッチン、大きなテーブル、椅子が二つ、今僕が寝かされている一体何サイズかもわからないような巨大なベッド。

 ……部屋の壁、天井に僕の写真は貼られていない。


 ヤンデレなら必須だと思うのだけど……とはいえ相手を監禁する部屋には飾らないか。

 この人の実家はこれ以上ないまでの金持ちだった。なら別に部屋があるのだろう。


「それで?何で僕はこんな風に拘束されているのだろうか?」

 

 僕は焦ること無く至って冷静に言葉を告げる。

 ここで下手に焦って戸惑うのは危険だ。この人は凄まじいまでの金持ち、おそらくは上級国民だ。下手に逆らったらやばいだろう。

 そもそも僕と先風穂波とは何の接点もなかったはずだ。なんで僕にヤンデレ愛が向けらているのか。

 まずはそれを知るところからだ。


「え?当たり前じゃないですか」


 うん。そうか。当たり前か……まぁ、ヤンデレが監禁することは当たり前だよね。


「ねぇ。ここにはテレビはないの?アニメは?YouTubeは?ラノベは?」

  

 次点で気にするのは……いや、最重要なのがこれだ。ぶっちゃけ監禁する理由とかクソほどどうでもいい。

 一番大事なのはここだ。これさえあれば別になんでもいい。


「ふぇ?」

 

 僕の言葉に先風穂波は理解できないと言わんばかりの表情を浮かべる。


「どうした?」


「い、いや……こんなにも狼狽えないんだと、思いまして……」


「え?それを君が言うの?別に良いことじゃないか」

 

 何を言っているのだろうか?この人は。

 それに、だ。ヤンデレ好きの僕からしてみればこの状況はご褒美でしか無いぞ?」

 

「い、いや……まぁ、そうですね」


「それで?結局どうなの?」


「……女性が出ていない作品であればいいですよ?」


「つまり無理じゃねぇか!」 

 

 かわいいヒロインが出てこねぇラノベはラノベじゃねぇ!!!見てぇのは可愛いヒロインだぞ!?


「なんでだ!?理由は!?」


「私以外の女性の人を見てほしくないんです」


「なら!ラノベを君が朗読してくれないか!?君の声で語られたのならその女の子キャラは君だッ!!!」

 

 ラノベが読めないのは死活問題ッ!!!なんとか!なんとか許されるような理論を構築しなくては……!


「あっ……それなら」


「え?……良いの?」


「えへへ。私だと思ってくれれば構いませんよ」


「良かった。じゃあそういうことで。あ、欲しいラノベは後で書面に移してね」

 

 ラノベきちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああ!!! 

 もうこれですべての問題が解決だな。後はヤンデレに愛され続けるだけよ!

 僕は安心しきってベッドへと体を預けた。

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