反射鏡

 ネオンの光が灼けつく繁華街。彼女の記憶ログをいくら遡っても、ここに来たという痕跡が一つもない。

「里紗は随分と清純気取ってるじゃん」

 つまらない。全てに於いてだ。どうすれば里紗の顔を絶望、その一色で塗り潰せるか、探してる。

「お姉さん可愛いね」汚らしい声で私は閃いた。

 笑える。現世に蘇れば期待に胸を馳せる。

 昔の誉などとうに忘れていたのに、現実のこの世界が心地よい。まだ見ぬ物に胸をときめかして、世界にいる全てに恋をする。

 あの子は一体何を思って、十羽という人間にこだわり続けるのだろう。私は見当もつかないものだ。


「...私、難しい遊びはまだよく分からなくて」

ああ! こうやって清純ぶる女喋る時が一番楽しいのだ。

「大丈夫。大丈夫。分かんないことは全部、俺が教えてあげるから」

「...勉強って事ですか?」

 チョロいな。名も知らぬ男が頷く。

 私は気づかれないように尻目で見た。

「じゃあお願いします」

 どうせ、この遊びもすぐに飽きるだろう。

 けれども楽しみがまだ残るとすれば、依代の里紗が絶望する顔が少しだけ。...楽しみだった。

  ああ。朝が来る。鏡の裏の中で眠る里紗と反転するんだ。


 ベッド。濡れてる。体が痛い。

「ここどこ?」『新宿のホテルだけど?』

 その言葉を聞けば、心臓はバクバクと要らないくらい脈立てて、ベッドから勢いよく飛び起きた。

「ねえ!私はこんなこと望んでない!」

『私の望みよ。契約したんだから、私が主導権を握ってる間は自由、何でもアリでしょ?』

 私は借り家じゃないし、

 何でもしていいよ。そう言って許容した覚えはないんだ。

「ハーロットはモラルが欠如している」

『ハイハイ。そうね』

『でも。昨日の私はすごく可愛かったな。自分でも思ったよ』

 涙が出る。嬉しくもない。気持ち悪い。生に縋り付いている私という人間に憎しみすら憶えるくらいに、今の私を見れば十人の中の全てが心の内、哀れで滑稽だと罵り、嗤うだろう。

「死にたい」

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