第六話 是非我が国へ

「皆の者! まずは怪我人の手当が先だろう!」


 その男は倒れている人間の傷の手当てを指示した。


「どなたか存じ上げませんが、助けていただいて感謝いたします。私はシルヴィスといいます」


 シルヴィスは続けてユーリーへ感謝の言葉を述べた。

 ユーリーはその優美で端正な顔立ちの男に見入ってしまった。数秒経った後、ユーリーは我に返った。


「シルヴィスさん。わたくしはユーリーといいます。それより大変でしたね。あのレベルのモンスターはここら辺では珍しいんです」


「そうだったのですか。……失礼ですが、そちらのドラゴンについてうかがってもよろしいですか?」


「はい、私が面倒を見ている子です」


「あなたが面倒を? ドラゴンは何百年も前に滅んだと聞いていたのですが」


「偶然卵を見つけたんです。土の中から。ドラゴンの卵だとは思っていなかったのですが、生まれた時にわたくしも驚きました」


 シルヴィスは真剣な顔で考えこんでいる。


「ユーリーさん、私の国で古くから伝わる伝承があります。『ドラゴンの卵は母となる聖女と共鳴してその姿を現す』と。もしかしたらユーリーさんはドラゴンの母に選ばれたのかもしれません」


「ドラゴンの母ですか? 聖女だなんてわたくしはそんな立派な者ではありませんよ」


「聖女も実在するかわからない伝説の存在ですからね。傷を癒したり、予知夢を見たり、モンスターと意思疎通が出来たりとまさに人知を超えた力を持っているそうです」


「え……。わたくしモンスターと意思疎通が出来ます。傷を癒したり、予知夢を見たりは出来ませんが」


「まさかあなたは本当に聖女様!? 伝説のドラゴンと聖女様に会えるなんて……」


 シルヴィスは好奇心旺盛な子供のように声を弾ませている。


「あなたさえ良ければドラゴンと共に私の国に来ませんか? 自己紹介が遅れましたが、私はレッフェッロ王国の第一王子です。是非ともあなたを国賓と同レベルなもてなしで招きたい。あなたに是非見ていただきたい施設もあるんです」


「えっ、王子様ですか!? あ……えっと……」


 ユーリーは明らかに動揺している。


「ははっ、そんなに緊張しないでください。普通に話して大丈夫ですから」


「いいえ、王子様ですから失礼があっては……。ところで施設というのはどのような施設なのでしょう?」


「モンスターを研究している施設ですよ。あなたがいてくださればモンスターにストレスを与えずに研究を出来るかもしれない。ドラゴンの研究もあなたさえ良ければ我が国で行いたいと思っています」


(んー。お父様には勘当されているし隣国に行くのは問題ない。伝承が多く残ってそうだからドラちゃんのことも色々調べられるかもしれない。何より聖女についても調べないと。よし、行こう! 何よりこんなかっこいい王子様の誘いを断るのは失礼じゃない!)


「わかりました。わたくしもドラゴンと聖女の伝承について色々と知りたいと思っております。この子の他にもモンスターの面倒をみてるのですが一緒に連れていってもよろしいですか?」


「もちろんです! ちなみに何のモンスターですか?」


「スライムとアンガーウルフです。とても賢い子たちですよ」


「アンガーウルフ!? あの凶暴な!? さすが聖女様ですね……」


「ふふっ、大人しい良い子たちですから安心してください」


 ユーリーは満面の笑みを見せた。


 こうして王子とユーリーたちは隣国であるレッフェッロ王国へ向かうことを約束した。


 出発は王子の準備のため三か月後となった。

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