8着目 初めての対魔物戦闘! そして鉢合わせ
冒険者としてのキャリアを積むのも、他の職業と同じく定番の順序という物がある。
初めて魔物と戦闘をするときは、決まって『マジラビット』と戦うのがこの国の定番とされている。
マジラビットは一本角が生えたウサギ型の魔物で、大型のウサギ程度の大きさがある。
繁殖力が高く、増えすぎたマジラビットは魔物の生息域を離れやすく、すぐに人里にやって来てしまい農作物に甚大な被害を及ぼす。そのため、割と頻繁に討伐依頼がやって来る。
加えて、低い威力の魔法を放つものの戦闘力は基本的に低い。
このように討伐依頼が多くやって来ることと魔物としては弱い部類であることから、デビューしたての冒険者の相手としてうってつけなのだ。
対してオレはこれから何を討伐するかというと、『ヴォルフ』だ。
ヴィルフはオオカミ型の魔物で、5匹程度の群れで行動しチームプレイで獲物を狩るのが特徴の魔物だ。
強さとしては魔物の中では下の中くらいらしく、ヴォルフを倒すことが出来れば冒険者として初心者を卒業したと評価される。
正直言って、10歳から冒険者として登録したものの今まで冒険者として活動せず、事実上ルーキーであるオレが一人で相手する魔物では無いと思う。
だが、この依頼を勧めたのはヘルミーナさんだ。彼女のコーチのジョブは人の現在の実力を見極めることができる能力を持っていたはずなので、今のオレなら討伐できるのだと踏んだのだろう。
今はヘルミーナさんのオレを見る目を信じるしかない。
ここで『魔物の生息域』について少し説明をする。
そもそも魔物は、魔力を以上に保持し変質した生物の総称。つまり、元は普通の生き物なのだ。
ただ、魔物となってからも元から持っている生殖機能で子供を産めるし、魔物の子供は魔物として生まれる。ということは、この世に存在する魔物は『生まれながらの魔物』と『元普通の生物の魔物』の二種類が存在する。
そして、魔物が発生したり生息したりする場所というのは決まっており、そのような場所を『魔物の生息域』もしくは『魔物の生息地』と呼ぶ。
基本的に魔物は生息域を離れることはないが、増えすぎると生息域の外に出る。というか魔物は普通の生物よりも繁殖力が高いので、割としょっちゅう出る。
そして生息域の外に出た魔物は、農作物や家畜を襲ったり、場合によっては人や街も襲う。
冒険者の仕事の一つは、生息域に住む魔物を間引いたり生息域の外に出た魔物を討伐することでもあるのだ。
オレは現在、リリエンシュタット近郊にある魔物の生息域の一つに来ている。
この生息域は森になっており、最近の調査でヴォルフの数がふえているという情報が入っている。
オレの冒険者としての初仕事は、ヴォルフを間引くことだ。
「お、いたいた」
ヴォルフを1体発見した。仕草からして、おそらく獲物を探す偵察役だろう。
オレはそいつに気付かないフリをして、普通に森を歩いた。
しばらく歩くと、目の前に1体のヴォルフが。そしていきなりそいつは飛びかかってきた。
「よっと」
オレは冷静に避ける。
そして戦士の衣装の能力で槍を呼び出し、空に向かって突き立てた。
「キャイン!」
槍の先を見ると、串刺しになり即死したヴォルフの姿が。
そもそも、最初に襲いかかってきたヴォルフはただの囮。オレが回避した隙を突いて背後から別のヴォルフ――つまり現在槍に貫かれているヴォルフがオレに食らいつく。
そして最後に群れ全員でオレに襲いかかって殺そうという算段だったのだ。
もっとも、この戦法はヴォルフとしてはかなり一般的で、冒険者の間ではよく知られている戦法だった。
だからタネさえわかれば、対処は簡単。これが『脱初心者冒険者向け』と呼ばれるゆえんだ。
そして、ヴィルフの群れは1匹でも死ぬとすぐ逃げる。そして新しい役割分担を決めるか新たな仲間を迎え入れるまで活動を停止する。
これだけでも、ヴォルフの繁殖の足を引っ張ることが出来るのだ。
「さて、さっさと解体して帰るか」
ここでもたもたしていると、血のにおいを嗅ぎつけられて新たな、場合によってはより強力な魔物が寄ってくる事がある。
オレは冒険者としての活動を2年もの間していないが、冒険者向けの講習を受けることは何度かあった。
その中には動物や魔物の解体というのもあり、一応オレはその技術を習得している。
というわけで倒したヴォルフを解体していたのだが……。
「なんだ、この音?」
非常に響く足音が聞こえ、しかも近づいてくるのがイヤでもわかってしまった。
「ガアアアアァァァァ!!」
「チッ!」
何かが飛びかかってきたが、すぐに剣を呼び出し防いだ。
そして相手をよく見てみる。姿形はヴォルフだが、体が一回り大きい。さらに額にはツノが。
まちがいなく、『はぐれ』だろう。
『はぐれ』とは、本来群れを形成するはずのヴォルフなのに、あえて単独行動をしているヴォルフのことだ。
そしてはぐれのヴォルフは普通のヴォルフよりも以上に何らかのステータスが高かったり、特殊な能力を持っている事が多い。また、なにかしら目立つ身体的特徴を持っている。
つまり、総じて普通のヴォルフより強いのだ。そのため、はぐれヴォルフは中堅クラスの冒険者が相手をするような魔物なのだ。
決して、事実上初心者であるオレが相手にする存在ではない。
だが、逃げることは出来なかった。
なぜなら、このはぐれヴォルフは異常に素早いタイプで、どう考えてもオレが逃げ切れるような相手ではないからだ。
そして今も、その素早さを生かしてオレを翻弄している。
「この、離れろ!」
オレは回避に失敗し、右腕に噛み付かれてしまった。
すぐに振り払ったが、右腕の籠手はヒビが入っていた。
ドレスアッパーの衣装には、耐久力が設定されている。その耐久力の範囲内なら、オレの代わりにダメージを肩代わりしてくれるのだ。
しかしダメージを受け続けると衣装が徐々に破損し、最終的には破壊される。
そうするとオレの身を守る物がなくなってしまい、致命傷を受けるリスクが増大してしまうのだ。
いつまでも守りに入ったままだと、非常にまずい状況だと言えた。
だが、何度か攻撃を避け続けている中、ある法則を見いだした。
「一か八か、やってみるか」
オレは斧を呼び出し、はぐれヴォルフを観察する。
そして、好機がやって来た。
「グルアアアァァァァ!!」
「そこだ!」
はぐれヴォルフが飛びかかる瞬間、オレは斧を投げつけた。
このはぐれヴォルフは、オレを襲うときに必ず飛びかかる。つまり空中にいるわけで、何か特殊能力でも無い限り空中で方向転換を行う事はまず不可能だ。
「ギャン!!」
オレの目論見は見事成功し、斧ははぐれヴォルフに命中。頭を深く切りつけており、まともに動くことも出来なさそうだった。
オレは斧を引き抜くと、もう一度はぐれヴォルフに振り下ろし、とどめを刺した。
全ての戦闘が終わると、いつの間にか手の中に布の袋が出現していた。
中には、シャツの意匠が刻まれたメダル――つまり『ドレスメダル』が入っていた。
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