9着目 登場! 謎のジョブを持つ少女
「はぐれのヴォルフが……。それは災難だったわね」
ギルドに帰り、討伐したヴォルフとはぐれヴォルフの死体を提出した。
これらはギルドの解体施設に送られ、素材ごとに分けられ、商人部門に登録している商人達に卸される。
本当は解体してからギルドに持ち込みたかったが、あの場所に長く居すぎてしまい、別の魔物に襲われるリスクが高くなってしまったので死体ごと持って帰ったのだ。
12歳の女の子の体では2体の魔物の死体を持ち運ぶのに苦労したかもしれないが、戦士の衣装の効果で腕力が上がっていたため、なんとかスムーズに持ち帰ることが出来た。
「なぜ逃げずに戦ったの?」
「素早さに特化したはぐれでしたから。この衣装は素早さが高いわけではありませんので」
「なるほど、あなたはそう判断した訳ね。それで、何かギルドに意見はあるかしら?」
「はぐれに遭遇した件ですか? 特にありません。冒険者をやっていれば、こういうトラブルは付きものだと思っていますので」
依頼を出すに当たり、ギルドの方である程度は調査しているらしい。そういう情報収集が得意な冒険者が先行して情報を集め、何か注意事項があれば依頼書に記載するし、推奨する冒険者を絞ることもある。
ただ、それでも限界は存在する。
ギルドは世界中の様々な街や村に存在するが、それでも調査すべき領域は広いし、情報収集を行う冒険者の数は常にどこも不足気味だ。
さらに、いくら調査を重ねても偶然が重なったりいつの間にか急激に状況が変わったりして、思いがけないトラブルに見舞われることもしょっちゅうある。
そういったトラブルに対処する能力も、冒険者に求められているのだ。
「ならいいわ。ここで『何でちゃんと調査してないんだ!』みたいに文句言ったら、ぶん殴ってた所よ」
「ヘルミーネさんは厳しいですね」
ハハハ、と笑い合ったが、『これが毎度笑い事で済めばいいんだけどね』とヘルミーネさんがぼやいた。
やっぱり文句を言ってくる冒険者は毎年一定数出現するらしく、その度にヘルミーネさんが殴り飛ばしては説教するらしい。
その後は大抵二パターンの道を辿るらしく、きちんと反省して数年後に大活躍するか、態度を改めず数年後に殉職するからしい。
この冒険者業界の厳しさを少し感じてしまった。
それから数日間、魔物の討伐依頼をこなしつつ戦闘に馴れていった。
それに伴ってドレスメダルもガンガン貯まっていったので、そろそろ新しい衣装を買って試してみようかな、などと考えていた。
そんなある日、いつものようにギルドに入って依頼を探そうとしたら、ヘルミーネさんと誰かが冒険者部門の受付前で話していた。
(うわっ、すごい美少女!)
ヘルミーネさんの相手は、今のオレとほぼ同世代くらいで、快活さを感じさせる雰囲気がある。そして彼女を見ているとなぜか自分の心臓の音が聞こえそうになる。
こんな経験、前世では全くなかった。何か彼女に感じるところでもあるのだろうか?
思考の海に沈みそうになったが、すぐに現実に戻った。
どうも二人で真剣な話をしているようで、自分のことなどすっかり吹き飛んでしまったのだ。
「ヘルミーネさん、どうかしたんですか?」
「ああ、レオナさんか。まぁ、ジョブ関係でね……」
少女に事情をオレに話してもいいか了承を取ると、ヘルミーネさんは説明を始めた。
この少女はエルマ、十一歳。リリエンタール大公領内の田舎町から出てきた冒険者。
そしてエルマも、ジョブに問題を抱えていた。
彼女のジョブは『ブーメランガー』。オレの時のように全世界の神殿の記録を集めた訳ではないが、今のところ確認されていない新しいジョブであり、やはりその能力は全く不明だ。
そのせいで、冒険者パーティーに入っても『役立たず』と言われすぐやめさせられるという事を何度も繰り返してきたらしい。
だがオレは、『もしかして』と思い始めていた。
「エルマだっけ? 君、もしかして『投げた物が戻ればいいのになぁ』とか思ったことないか?」
「う、うん、そうだけど……」
なんでも、エルマの住んでいた街では石を投げる的当てが流行っていたらしい。
だが、たまに投げた石を回収している最中に石を投げる危険行為をする連中が現れ、ケガをする子が続出したらしい。
エルマもそのような経緯でケガをした過去を持っていて、その時に『投げた石が勝手に戻ってくれば、危ない思いをして拾いに行かなくてもいいのに』と思ったようだ。
「なるほど。もしかしたら、オレはエルマの能力を解き明かせるかもしれない。一日待ってくれないか? 明日、この時間にここに来てくれればいいから」
言いたいことを言うと、オレはさっさとギルドを後にした。
そしてオレは木工職人がいる工房を尋ね、無理を承知でお願いしてある物を作って貰った。
構造的には簡単だったので、その日の夕方には完成していた。
そして翌日、ギルド・冒険者部門前。
「はい、多分これがエルマの武器だ」
「レオナさん。えっと……それは……L字の木の棒?」
この世界で見たことがある人間なんているはず無いので、ヘルミーネさんは非常に困惑している。
だが、受け取ったエルマは暗かった顔がパァッと明るくなった。
「なんか、よく馴染む。これがあたしのジョブの武器だって、本能でわかるって感じがする!」
「よかった、当たりみたいだな。とりあえず試してみるか?」
オレは訓練場の使用許可を取り、そこに向かった。
場所は、以前オレの能力を試したことがある訓練館のグラウンドだ。
「じゃ、そいつを投げてみろ」
「うん!」
エルマは武器を思いっきり投げた。
その武器は一定の距離まで進むと、弧を描いてエルマの手元に戻ってきた。
「うそ!? 投げた武器が持ち主に戻ってきた!?」
「オレも以前ちらっと資料を読んだだけですが、覚えていて幸運でした。あれは魔法を使わず、物理学的な現象のみで弧を描くような軌道を飛ぶ投稿武器。その名も『ブーメラン』です」
もちろん、『ちらっと資料を見た』というのは嘘だ。前世の知識から引っ張り出したに過ぎない。
ブーメランは前世ではオーストラリアの先住民が使用していた武器として有名で、今では世界的な知名度を持っている。
投稿者の手元に戻ってくる原理については、ネットで読んだことがあるがオレの物理の知識ではついに理解出来なかったが。
なお、オレも前世では何度かブーメランに触ったことがあるが、ついに弧を描かせるような投げ方は出来なかった。何かコツがあるっぽかったが、それをつかむことが出来ずに一生を終えてしまったのだ。
ちなみに、ブーメランは英語で『Boomerang』と書く。そう、最後に『g』が入るのだ。
そこに『~する者』的なニュアンスで語尾に『er』を付けると『Boomeranger』、つまり『ブーメランガー』、エルマのジョブ名となる。
そこから着想し、オレは『もしや』と思ったのだ。
そして結果は大当たり。
誰にもコツを教えられることなく(というか教えられず)弧を描かせる投げ方を習得した。
そして一時間もしないうちに自分の体を何周かさせてから手元に戻すという、前世でブーメラン名人がテレビで披露していた技を早々と習得して見せたのだ。
「めちゃくちゃ上手くなったじゃないか、エルマ。やっぱり、ブーメランを使うジョブだったんだな」
「うん、投げる度に上手く投げられる方法を思いつくの! レオナさん、ありがとう!」
「これなら、実戦で試しても良さそうね。いい依頼を見繕うわ」
そして、ヘルミーナさんはエルマに合う依頼を探しにギルドへ戻った。
エルマはそれから体力が尽きるまでブーメランを投げ続け、オレはそれを見守っていた。
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