5着目 ジョブの秘密! 鍵は転生直前に……?

 リリエンシュタットのギルドの冒険者部門に務めているヘルミーネさんの経歴は、少々変わっている。

 彼女は10歳でジョブを授けられてから冒険者として活動し、徐々に頭角を現してきた。

 だが、大けがをしたわけでもないのに18歳という通常ではあり得ない若さで引退してしまった。


 その理由は、ヘルミーネさんのジョブ『トレーナー』の特性によるものだ。

 トレーナーは、どんな分野でもある程度は何でもすぐに習得してしまえる。

 しかし、一流と言えるほどの技術は絶対に習得できない。


 その理由は、トレーナーの真の力は『教えること』にあるからだ。

 トレーナーのジョブ持ちから教えて貰うと、そのほかのジョブから教えて貰うよりもはるかに早く、効率よく技術を習得できるのだ。

 このジョブの特性により、ヘルミーネさんは早めに引退して冒険者の教育係として生きようと決めていたらしい。

 なので、現在のヘルミーネさんはリリエンシュタットのギルドの冒険者教育係なのだ。


 だが、ヘルミーネさんにはもう一つの顔がある。ジョブの研究者としての顔だ。

 なぜ学者系のジョブでもないのにジョブの研究を行おうとしたのか理由はわからないが、教育係として活動を始めてからジョブの研究にも手を出している。

 しかも、どうやらトレーナーのジョブが持つ教え子の観察眼も相まって、よくわからないジョブの力の解明に成功した例が、彼女が研究を始めてから5年で何例か存在している。

 そのため、ヘルミーネさんの事は帝国中のギルド関係者の間である程度知られているらしい。


 オレがヘルミーネさんを頼ろうと思ったのも、こうした実績があるからだった。


 ヘルミーネさんは教育や謎のジョブの解明の実績があるからか、ギルド内でも重宝されているらしく、小さいながらも彼女専用のオフィスが用意されていた。

 オレはヘルミーネさんのオフィスに通され、早速本題に入った。


「さて、レオナさん。あなたは私にジョブの力の解明を依頼しに来たそうだけど――一つ大事なお話をしなければなりません。

 確かに、私は教育係に就任してから今日までの5年間で、何度か謎のジョブの力の解明に成功しました。ですが、それ以上に失敗した件数の方が多いのです。そのことを、まず最初に理解して下さい」


「ああ、わかった」


 やはり、現実はあまり甘くないらしい。よく知られていないだけで、ヘルミーネさんの謎のジョブの解明も、あまり成功率が高くないようだ。

 だが、それでも可能性がゼロよりかはマシなはずだ。


「ご理解いただけてありがとうございます。では、私ヘルミーネはレオナさんのジョブの謎を解明しましょう。

 では、まずはどのようなジョブが授けられるかについて。過去様々なジョブの記録を見ると、ジョブの授けられ方は大きく分けられて2種類あるの。遺伝するかそうでないか、ね」


 これはオレでも知っている。

 ジョブはある種の遺伝性があり、両親のどちらか、あるいは両方のジョブの特徴が混ざったかのようなジョブが授けられる。

 両親のジョブに関係がなさそうでも、遡ると実は先祖のジョブが発現していた――なんて事実が発覚することがある。もちろん、先祖のジョブが混ざったようなジョブになる事もある。

 エーベルハルト家の人間でたまに勇者のジョブが出るのも、こうした遺伝性の影響によるものだ。


「そこで、私は非遺伝性のジョブが授けられた例を中心に研究を進めていったの。そしたら、ある共通点が見つかった。どうやら、何か強い願望だったり、元々持っていた性格が強く影響していたりしていたの」


 例えば、代々騎士をしていて、ジョブも『騎士』を始め戦闘系のジョブしか授けられていなかった家の子供に『鍛冶師』のジョブが授けられた。

 これは、その子が剣や鎧の製作に強い興味を抱いていた。

 また、代々『農家』のジョブしか授けられていなかった家の子に『狩人』のジョブが授けられた例がある。

 この場合、その子の性格が非常に好戦的だった事が影響し、農家を営んでいても活躍出来るジョブが選ばれたと考えられるのだ。

 こういった例をヘルミーナさんは独自に調査しており、そうしたデータの蓄積の上でそのような結論を出したらしい。


「そういうわけで、レオナさんはジョブ神託の儀を受ける前に、何か強い願望みたいなのはなかった? もしくは、自分の性格に何か心当たりがあるとか……」


 う~ん、そう言われてもなぁ……。

 性格は、まぁ前世の事もあって男って事くらいだし、それがジョブに影響を与えるかと言われると違う気がする。

 願望の線も薄いと思う。特に強く『何かになりたい!』的な考えは別に持たなかったし……。


 けど、もしかしたらオレが転生者であることに何か関係があるのか?

 転生直前の事を思い出してみると――そういえばオレを転生させた女が聞いていたな。どのような人生を送りたいかとか、能力に希望があるかとか。

 で、オレはその時にうっかり前世でやっていたゲームの事を考えていて――そしたらいつの間にかオレの希望ってことになって、そのまま転生したんだっけ。


 ――待てよ? もしかして、オレのジョブの能力って、その時考えていたゲームに似たものなのか?


 パサッ、パサッ。


「なんだろう、この音」


 転生前の事まで遡って考えていると、何か2冊の本が落ちたような音が聞こえた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る