4着目 いざ南へ! ジョブの秘密を解明せよ!
以前、アイレンベルク帝国の貴族の爵位については説明したと思う。
この帝国で皇帝を除く最も地位の高い貴族は、『大公』だ。
大公はアイレンベルク帝国内で3人しか存在しない。これは、元々アイレンベルク帝国の建国に多大な貢献をした3人の家来に、初代皇帝が感謝の意を込めて贈った特別な地位だからだ。
その地位は非常に強力で、皇帝の分家にあたる公爵家よりも強い。
さらに時代が下ると、皇帝家と大公家との婚姻関係を結ぶケースが増えていき、現在では血縁関係から見ても公爵家の上位互換のような存在になっている。
そして3人の大公は東、西、南に広大な領地を与えられ、代々その地を治めている。
オレが目指しているのは、アイレンベルク帝国南にあるリリエンタール大公領の中心地、リリエンシュタットだ。
なぜオレがそこを目指しているかというと、そこにオレのジョブを解明してくれそうな人が居るからだ。
実は、いつか家を追い出されるかもしれないと想定をしていたオレは、あらゆる手を使って追放された後に備えて動いていた。
あの両親では当てにならないのを知っていたオレは、なんとかして情報を入手しようとしていた。
そこで目を付けたのが、『ギルド』だ。
この世界のギルドは、前世でよくあるファンタジー小説のように職業ごとにギルドが分かれているわけではない。
というのも、それぞれのギルドがバラバラに活動するよりもまとまって活動した方が効率がいいと考えたからだ。
例えば、商人が遠くの街へ荷物を運ぶ際、魔物や野盗対策として冒険者を雇う。その冒険者は装備を様々な店から購入して揃えるが、その装備品は元を辿れば様々な職人のギルドへ発注をかけて仕入れている。
このように、冒険者の依頼一つ取っても色々なギルドが関わるため、そのたびに書類がギルド間を飛び交ったり人が赴いたりするのは時間や手続きの効率が悪いので、統合して一つの建物の中でなるべく済ませられるようにしよう、という思想でギルドが統合されたのだ。
なお、バラバラだった時代の各ギルドは『部門』という形で区切られている。
そのギルドに当時10歳になりたてだったオレに何のつながりがあるのかと言うと、実はある。
エーベルハルト家は代々伝わる子供の教育法として、必ず武芸の稽古をさせられる。そしてジョブが授けられると、冒険者としてギルドに登録するか軍学校に入学するかのどちらかを選択するのだ。
ジョブが判明してからギルドに登録したり様々な学校に入学したりするのは、この世界のどの身分の子供でもおおむね同じだが、エーベルハルト家の場合は武芸の稽古を積んでいるので冒険者を選択した場合は即戦力として評価される、らしい。
オレの場合はとりあえず冒険者として登録したが、ジョブの力が何なのかわかっていないのでほぼ活動していない。
だがその代わり、ギルドの冒険者部門にはオレの力になってくれる人物が存在した。
実はエーベルハルト家出身の人の中には、冒険者で活躍し、引退後は裏方として組織や現役冒険者の支援の仕事をしている人もいる。
まぁエーベルハルト家出身といっても、父親と血縁的に非常に近しい人もいればほぼ他人とも言える人もいるし、権力欲を滾らせている人もいれば争いとは無縁で平穏無事に過ごしていたい人もいる。
で、そんな多種多様なエーベルハルト家出身の人達の中に、オレのジョブについて興味を持ってくれる人が居た。
その人に頼んで、オレのジョブのことを解明してくれそうな人を探してもらうよう頼んだのだ。
そしたら、なんとジョブの研究を行っている人がリリエンシュタットのギルド、しかも冒険者部門に勤めていることがわかった。
その人と何度か手紙をやりとりし、オレがエーベルハルト家を追放される数日前に『リリエンシュタットのギルドに来れば、あなたのジョブについて一緒に考えてあげられそうだ』という趣旨の返事を貰ったのだ。
こういう経緯で、オレはリリエンシュタットに行くことを決意したのだ。
アイレンシュテットから馬車を乗り継ぎ、1ヶ月近くかけてようやく目的地のリリエンシュタットに到着した。
ちなみに旅費は、エーベルハルト家を追放されたときに渡された手切れ金を使った。
どのような形であれ、家を出るときは手切れ金を渡す。これは貴族の慣習というかしきたりのような物だ。
別に守らなくてはいけない法律の様なものは無いのだが、金銭的な縛りを設けることで色々とトラブルを回避できるため、どの貴族も積極的に取り入れている。
さて、ここリリエンシュタットはリリエンタール大公領の中心地であり、港街でもある。
アイレンベルク帝国の北にある国々や海の向こうにある国の貿易船が頻繁に出入りしている貿易港であり、輸出入品を狙って商人が活発に活動する商都でもある。
さらに、アイレンベルク帝国を南北に縦断する大河『メイン河』の河口を持っており、リリエンシュタットで集積された積荷がメイン河を通じて帝国各地に輸送される。つまり輸送の重要拠点でもあるのだ。
なお、メイン河は首都アイレンシュテットの近くを通るため、アイレンシュテットにとっても重要視される河でもある。
そんな活気に満ちた街を通りつつ、オレはある建物を探していた。
「ここか。リリエンシュタットのギルドは」
たどり着いたのは、ここリリエンシュテットのギルドだ。
オレは冒険者部門の窓口で、ある人物との面会を希望した。
しばらく待っていると、その人物がやって来た。
「あなたがレオナ・エーベルハルトさんね? 直接顔を合わせるのは初めてだから改めて――私は当ギルドの冒険者部門に勤めている、ヘルミーネと言います。よろしくね」
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