第19話 家と和風パスタ
「家に行くって緊張するよ」
「今日はお母さんしかいないから大丈夫だよ」
「そういうものなのかな…」
今日は初めての、ゆりの家に行くということになっていた。
無断でといってもゆりのお母さんには確認をとっていたけれど、それでも娘さんを連れだしているというので、やっぱり行かないわけにはいかない。
でも、よかったというべきなのか、家にいらっしゃるのはこれまでも何度か会っているお母さんということもあって、人と会う緊張というよりも、どんな家なのだろうかとう緊張のほうが大きかった。
といっても、外観ではマンションということくらいはわかっていたので、逆にいえばそれくらいしかない状況の中で家にお邪魔することになっている。
そこでというべきか緊張を紛らせるという言い方は悪いのかもしれないけれど、ゆりのお母さんが一度食べてみたいと話されていた料理を振る舞うことになっている。
しっかり美味しいものが作れるだろうか?
そればかりが気になって、変な汗が出る中で、ようやくというべきかマンションの前についた。
「やっぱり大きいよね」
「うーん、でもゆうとの家に比べると小さいと思うよ?」
「田舎とこんな都会を一緒にしないでほしい」
「そうなの?」
「そうだよ」
そうなのだ。
確かに家は大きいのかもしれないけれど、田舎というのは知り合いに建ててもらうことが多いので、家を建ててもらった人も昔からの馴染みというものだ。
だからというか、しっかりとした仕事をしないと評判を落としかねないと、かなり腕はいいと父親が言っていたのを思いだす。
そんな田舎特有のことを思い出しながら、なんとか緊張をごまかして家の前までやってきた。
「じゃ、ようこそ」
「お、お邪魔します」
は、初めての彼女の家…
それも生まれ育った家ということもあって緊張するなということのほうが難しいだろう。
それくらいには緊張しながら家に入ると、奥からお母さんが歩いてくる。
「いらっしゃい。今日はよろしくね」
「こ、こちらこそよろしくお願いします」
「もう、お母さん。そういう言い方はよくないよ」
「そうかしら?」
「そうそう、プレッシャーだから」
「あはは…」
確かにプレッシャーだ。
そんなことを思いながらも、僕は少し世間話というべきか、ゆりの学園での様子の話をした後に、ご飯を作ることになった。
今回作るのは、あっさりと和風パスタだ。
野菜はほうれん草、大葉で、後はしめじ、そしてベーコンにした。
まずはお鍋をと探そうとすると、お母さんから、ここよと教えてもらう。
「少し作っているの見せてもらっていい?」
「だ、大丈夫ですよ」
「もう、お母さん、ゆうとの邪魔しないでよ」
「わかってるわよ」
そんなことを話しながらも、キッチンでお母さんと二人きりになる。
緊張するなというのが無理なタイミングで、テレビを見ているゆりに気づかれないような小さな声で、お母さんが話しかけてくる。
「ありがとうね」
「えっと、何がでしょうか?」
「そうね。あの子を楽しそうにしてくれて…」
「えっと、最初から楽しそうでしたけど…」
「それはあなたがそういう人だからよ」
「そうなんですか?」
「ええ」
言っていることがわからないながらも、僕は調理を進める。
ほうれん草を湯がいて、しめじはちぎっておく。
「あの子、ゆうと君に出会ってから、ごちそうさまでした。いただきますってまたいうようになったのよ」
「そうなんですか?」
「ええ、大きくなって一人でなんでもできるからと、ご飯もお金を渡すだけ渡して何もできていなかったのにね…」
そういってどこか遠い目をするお母さんに僕は思わず反論する。
「そんなことないですよ」
「どうしてそう思うの?」
「それは、本当にお母さんがそんなことさえも教育していないのであれば、僕がいただきます、ごちそうさまでしたをしても何も感じませんから…」
「そうなのかしら?」
「はい。それがいいことだって僕も気づいたのは家を出てからですから」
「ふふふ、当たり前が当たり前じゃなくなったときにそれがいかに大事なことかわかるってやつね」
「はい。って生意気には言えないですけど…」
「どうして?」
「その…自分の家族にはそれを恥ずかしくては言えませんから…」
「ふふふ、言葉にしなくてもわかるものよ、親っていうものはね」
「そうですか…」
「ええ!それで何を作っているのかしら?」
「和風パスタですね」
「へえ…」
鍋を二つ沸かし、片方にはパスタ、ほうれん草はすぐに柔らかくなったのでざるにあげて水をきる。
一口大に切っておき、ベーコンも同じようにしておく。
大葉は細かく刻んでおく。
パスタ茹で上がりの少し前に、オリーブオイルでベーコンを炒める。
ここでニンニクを入れてからでもいいけれど、今回は女性が二人いるのでさすがにと思いやめている。
そしてしめじを炒め、その後にパスタとほうれん草を入れる。
パスタはあげずにしておくと、麺同士が固まることを防げるので茹で上がる少し前に具を用意するのがオススメだ。
後は塩コショウと、ポン酢と、そして青じそドレッシングを入れて、味を見たら完成。
後は火を止めてから大葉を上にのせて完成。
食卓にもっていくと、ゆりがお母さんを見ていた。
「何かいらないこと言ってないでしょうね?」
「ええー、言ってないわよ」
「お母さんのそういうところは信用できないのよ」
「ま、まあ、冷めないうちに食べようよ」
そう僕が口にすると、それ以上何かを言うこともなくパスタにフォークをいれようとするお母さんの手をゆりが叩いた。
「いた!」
「いただきます」
それを無視するかのように、そういって食べ始めるゆりをお母さんは優しい表情を見せていた。
美味しそうに、でも自分の母親に見せるのは恥ずかしいのだろう少し照れながら食べるゆりを僕も同じ表情で少し見てからいただきますを言って食べるのだった。
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