第17話 お礼とクッキー
夜寝るまでと、朝起きてからも、じゅんからの質問が続いたが、僕はただ何もやっていないと答えておいた。
実際起きてきたあいもゆりの物腰をして、僕のことを意気地なしとけなしていたので二人して酷いやつだと思った。
むしろ、手を出さないこの自制心をすごいとほめてほしいくらいだ。
ゆりは朝起きて、すぐにお母さんに連絡を入れたらしく、珍しくあわあわとしていた。
そんなことがありながらも、現在していることは…
「ここで、小麦粉をふるって」
「えーっと」
「バターを…」
「つ、作り方をしっかりと見ながらさせて」
真剣にゆりが取り組んでいるのはクッキーづくりだった。
理由としてはあいとじゅんに迷惑をかけたから作って渡したいということだった。
気持ちはわかるけれど、そんなにすぐに作らなくてもと思ったが、どうやらゆりの考えはそうではなくて、少しでも何かやるためにもまずは分量が決まっているお菓子作りをしたいということだった。
そこで一番最初に思いついたのがクッキーだった。
美味しいし、簡単そうだからというが、これが結構面倒なことを僕は知っていた。
それは妹と一緒に作らされたことがあるからだ。
友チョコなるものを作るということで、一緒に作ることになったのだけれど、型抜きがかなり大変だったことを思い出す。
だからカップケーキを僕は押したのだけれど、ゆりとしてはそうではないらしい。
クッキーが可愛いというのはわかるけれど…
だけど真剣に料理をするゆりを見て、何かを言うつもりはなく、その後もしっかりと作り方を見ながら、一つは普通にバターで、もう一つをココアクッキーにすると伸ばして、型抜きをする。
「手伝うよ」
「あ、ありがとう」
二人で僕たちはもくもくと型抜きをする。
いくつものクッキーができた。
オーブンを予熱で温めて、クッキングシートを敷いて、並べて焼くというタイミングで、僕はアドバイスをした。
「バタークッキーを手前に置いたほうがいいよ」
「どうして?」
「外からどれくらい焼けたのか確認したいときに、ココアクッキーだと黒いからどれくらい焼けたかわからないからね」
「なるほど、さては失敗したことある?」
「う゛…」
実は妹とつっくたときに失敗したのがわかったのだろうか?
そんなことを考えたが、ゆりはしっかりと僕の助言通りに手前と奥を入れ替えて、いれる。
それが終われば後は適度に見ながら、焼いていくだけだ。
焼けてくると、いいにおいが充満してくる。
「いいにおい…」
「そうだね」
二人で並んでお菓子が焼けるのを見ながら、そしてにおいを感じる。
お互いが見るものが同じで、感じるものも同じ…
そして食べるものでさえも同じで…
付き合っているというのは、一緒に時間を過ごすというのはこういうことなんだということを再度思い直した。
僕はそれが嬉しくて、恥ずかしくてでもそれが心地よくて…
手を握る。
ゆりも顔を赤くそめる。
甘いにおいと、甘い空間が広がった。
そして焼けたクッキーも、しっかりと甘くて、二人で笑った。
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