第16話 1人とアジフライ
天ぷらが終わった次の日も、油を使って何かを作るということであたしは家にお邪魔していた。
ただ問題があるとすればそれはたぶん今の状況だろう。
「ど、どうすればいいんだろ…」
そう考えて、でもあとは揚げるだけと言っていたことを思いだしたあたしは、熱くなった油にアジフライを入れた。
途端に油がはねる
「あっつい…氷…」
すぐに冷蔵庫に入っていた氷で手を冷やす。
それでもヒリヒリとした手はすぐには冷えなかった。
そこでゆうとの後ろ姿を思い出していた。
つい昨日のことだったので、ちゃんと手伝っていなかったことに後悔を覚えながらも、見ていたことを思い出した。
「そういえば、言ってたっけな」
鍋につたわせるようにして入れることで油が飛ぶのを最小限にできるということ。
それを思い出したあたしは、先ほどは箸を使って上から入れていたのを鍋の側面をつたわせるようにして入れた。
「全然飛ばないね」
最初とは違い揚がりかたが静かだ。
これはたぶん二つ入れたからそれにより油の温度が下がったからなのだろう。
だから飛び散るのも少なくなったということだ。
それでも最初からど真ん中に入れるというのはかなりの間違いだったのかな…
そんなことを考えながらも、しっかりと揚げて二枚を揚げた。
さらに二枚を揚げていく。
揚げる時間は正確には決まっていないのだろうけれど、こんなことも言ってたのを思い出す。
「揚げたら、揚げたてを食べるんじゃなくて、少し余熱で火が入ったものを食べるだったかな?そのほうがいいって言ってたよね」
そんなことを考えながら、さらに二枚を揚げて、揚がり終えれば油をきるためにキッチンペーパーをしいたバットにおく。
そこで気づいた。
揚げたては、どうしても衣にも油が多く含まれているからか、衣自体もまだべちゃっとしていた。
「これは確かに、美味しそうじゃないかも…」
そんなことを思いながらも、あたしは最初に揚げていた二枚を自分のお皿に入れた。
出ていく前に作ってくれていたお味噌汁とご飯を入れてゆうとが帰ってくるのを少し待っていたが、そんなときに携帯が鳴る。
「ごめん、帰るの遅くなるからご飯食べて、帰っててか…鍵は隣の人に渡せばいいってことか」
それでもなんだかな…
こういうことを考えちゃうとつくづくゆうとのことが好きなんだなって感じる。
一緒にご飯を食べたかったな。
作っている後ろ姿を見ていたかったな。
優しく見てくれている表情を、あたしも見ていたかったな。
そんなことを考えながらも食べるアジフライは、確かにサクサクで美味しかったけど、どこか味気なくて、そしてしょっぱかった。
「おーい、ゆり?」
揺さぶられる感じがする。
夢を見ているというのだろうか?
まだそこにいるはずのないゆうとの顔が間近にあったあたしは、顔をしっかりとつかむとキスをしたのだった。
夢だと思いながら…
※
帰ってくると玄関があいていた。
おかしいと思いながらも足を踏み入れると、最近見慣れた靴がある。
ゆり、まだ帰っていなかったのか?
そんなことを思いながらも、部屋に入ると、ベッドの上に座るようにして眠っていた。
テーブルにはラップがかけられたご飯が残っている。
ゆりの分はしっかりと洗って、おいてあった。
待たせすぎたってことか…
僕はこのままではいけないと思い、ゆりを揺さぶって起こしたのだが、寝ぼけたゆりに気づけばキスをされており…
ファーストキスを終えた僕は、その味がアジフライであることに少し苦笑いをしながらも、大好きなゆりの頭をなでるのだった。
その後は一緒に寝るなんてことはなく、隣の部屋で同棲中のあいに声をかけて、この部屋で寝てもらい。
僕はというと、隣でじゅんと一緒に寝るという、かなり恥ずかしいことになりながらも夜は更けていく。
寝る前に自分の唇を指でなぞってしまったのは仕方のないことだと思いながら…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます